Do you love“me”?

「今から、迎えに行きます。場所、教えて下さい」

「へっ!?」

次に彼の口をついて出た言葉に、素っ頓狂な声を上げてしまった。


“迎えに行きます”って、何で!?

だけど、パニックを起こす私とは対照的に、稜君は至って冷静で。


「場所、教えて下さい」

もう一度、静かに声をかける稜君の後ろから聞こえるのは、さっきまでは聞こえなかった車の騒音。

きっと、建物の外に出たんだろう。


この前聞いた声とは全く違うその声に、少し戸惑いながらホテルの名前と場所を告げると、

「十五分……いや、十分で行きます。今日、美月さんアクセサリー付けてましたか?」

突然、そんな事を言い出した。


アクセサリー?

「はい。指輪とネックレスと、ピアスを」

「じゃー、ネックレス外して最上さんの所に戻って」

「え?」

「“ホテルのどこかでネックレスを無くした”とでも言って、時間稼ぎしてて下さい」


時間稼ぎ?


「もしも何か言われたら、“彼氏に貰った物で”とか、“外さない約束してるから、浮気だと思われる”とか言って、誤魔化して下さいね」

「わ、わかりました」


もう何だかよくわからないけど、とにかく頷きながら返事をした私に、稜君は「絶対部屋には行かないで。すぐ行くんで、待ってて下さい」と告げると、返事も待たずに電話を切った。


――“待ってて下さいね”。

そう言った稜君の声が、耳から離れない。

それに、さっきまでドクドクと嫌な音を立ていた心臓は、いつの間にかゆっくりと落ち着いた鼓動を刻んでいた。


「ふー……」

少しだけクリアになった頭を振って、小さく息を吐き出し、首元から細いシルバーのネックレスを外した私は、

「大丈夫」

自分に言い聞かせるようにそう呟いて、ゆっくりとパウダールームを後にした。


< 26 / 397 >

この作品をシェア

pagetop