Do you love“me”?
“絶対部屋には行かないで”――電話越しの稜君の言葉が、頭に浮かぶ。
私だって行きたくない。
何か……何か考えないと。
唇を噛みしめて、握る手にギュッと力を入れたその時。
「――……っ」
小さく震えていた腕が、後ろから大きな手に掴まれた。
「も~がみさんっ!」
本当に驚いた……。
だって、この前と同じように、楽しそうに最上さんに声をかけたのは、ちょっと息を切らせてにっこり笑う稜君で。
「稜? 何でお前がいんの?」
特に表情を変えることもなく、私の腰に当てた手を離すこともしない最上さんを見ると、本当にこの人にとって、こういうことは日常茶飯事なんだと思った。
最上さんの問いかけに一瞬考え込んだ稜君は、また口角を上げて笑顔を作ると、
「最上さん、グラウンドに戻った方かいいかも」
そんな頓珍漢《とんちんかん》な返事をした。
「は?」
さすがの最上さんも“ワケがわからない”という顔をしていたけど、稜君は、ちょっと顔を傾けながら最上さんを覗き込んで言ったんだ。
「最上さん、今日真由美さんに居残り練するって嘘吐いたんでしょー?」
「え……?」
稜君の一言に、それまでの表情を一変させて眉を顰めた。
「俺、さっきまで練習してたんですけど、真由美さん来ましたよー」
「……」
「一応“さっきちょっと出かけたんで、すぐ戻ると思いますけどー”って言っときましたけど」
顔色を変えた最上さんとは対照的に、稜君は相変わらず可愛らしい笑顔を浮かべたままそう言った。
最上さんの反応を見ると、多分“真由美さん”っていうのは、最上さんの彼女か何かなんだと思う。
――そんな人がいるのに。
胸の中に、もの凄く嫌な感情が沸き上がる。
こいつ、ホントにダメ男だ!!
今更だけど、やっぱダメ男だっ!!
私の胸中を、当然察する事の出来ないダメ男・最上は、稜君に向けていた視線を私に落とし、
「美月ちゃん、悪いけど稜に送ってもらって」
と、それだけ言い捨てて、面倒臭そうに溜め息を吐きながらロビーを後にした。