Do you love“me”?
「美月ちゃんの髪って細っいよねー」
お風呂から上がると、稜君はいつものようにドライヤーを手にやって来て、座る私の髪に温風を当て始めた。
「そうかなぁ? 普通じゃない?」
「だって、サラサラでふわふわ~」
後ろに座る彼の表情は見えないけれど、きっといつものあの笑顔で、ふわりと笑っているのだろう。
「ん? どうかした?」
「あ……。な、何でもない!」
「えー? 変な美月ちゃん!」
「あ、あはは」
誤魔化し笑いを浮かべた、その理由。
さっきから、稜君のその長い指先が私の耳や首筋に触れる度に、
“あぁ、稜君が日本に――私の傍にいるんだ”
そんな実感が湧いてきて、ちょっと泣きそうになっていたから。
それに気が付いたのかもしれない。
一瞬無言になった稜君は、ドライヤーをカチッと止めると、私の髪を一束掬って、そこに唇を近づける。
「美月ちゃんの香り」
驚いて振り返った私に、やっぱり彼は、あの柔かい笑顔を向けた。
「私にとっては、稜君の香りだよ」
私の言葉を聞いて、もう一度クスッと笑う。
「ずっと俺がここで使ってたやつ、使ってくれてるんだ」
「うん……」
だって、稜君を思い出せる物は、一つでも多い方がいい。
一つでも多く傍に置いておきたいって思うんだ。
――“香り”と“感触”。
それが一番、記憶に残る気がする。
私だけなのかもしれないけれど、記憶ってすごく曖昧で……。
声とか、目で見た物って、だんだん薄れて褪せていって、いつの間にか思い出せなくなってしまう。
もちろん、稜君の事は何一つ忘れてなんかないけれど、それでも時々怖くなる。
だから私は、こんなに香りに執着しているのかな?
ボンヤリとそんな事を考えていた私の目の前に、稜君がひょっこりと顔を出した。
「でも、わかる気がする」
「え?」
そしてちょっと困ったような笑顔を浮かべながら、私を見つめる。
「実は俺もね、ちょっと前に同じのネットで買っちゃったんだよねー」
「へ?」
言っている意味がわからなくて、目をパチクリさせた私の頭を稜君がそっと撫でた。
「同じシャンプー、同じボディーソープ!」
「……」
“どうして?”
つい口を開いて、そんな言葉を口にしてしまいそうになった。
だけどそんなの、聞かなくてもわかる。
だって私も、きっと同じだから。
「美月ちゃんと一緒にいるみたいで、すごく落ち着く」
そう言いながら、私の頬をまだお風呂上がりでいつもよりも温度の高い唇でなぞる。