Do you love“me”?


「まったくもー……。川崎君といる時の航太って、本当に子供っぽいよねー」

結局一緒に入る事になったお風呂に浸かりながら、おねぇーは楽しそうにクスクスと笑った。

どこか航太君に似てきた気さえするその幸せそうな笑顔を見ていると、こっちの心までほんのり温かくなる。


「おねぇーってさぁ」

「んー?」

「かわいいよねー……」

「はっ!?」

私の言葉に、何事だと言わんばかりの表情で顔を顰めたおねぇーだけれど、本当に可愛いと思う。


「いや、顔は私の方が可愛いんだけど」

「はいはい」

「 何か……雰囲気? ホント幸せそう」


俯いて湯船にはられたお湯をパチャパチャ叩く私に、ちょっと困ったように笑ったおねぇーは、

「美月は、幸せじゃないの?」

そう言いながら、私の顔を覗き込んだ。


「幸せだよ」

「……」

「でも、ちょっと辛い、かな?」

だけどその言葉を口にしたすぐ後に、それは間違いだと思った。


「ごめん、間違えた」

「え?」

「“辛い”じゃなくて“切ない”」


そう。

“辛い”じゃない。

――ただただ“切ない”。


遠くにいる稜君を想う時はもちろん、彼が近くにいる時でさえ、この時間がいつか終わってしまうんだって思うと、どうしようもなく胸が痛くなる。

この気持ちは、稜君を想う気持ちで、稜君が好きだからこそ湧き上がるもの。

だから、その想いは“辛い”ものじゃない。

紛れもなく“切ない”気持ち。


それを口にした後、ブクブクと口の辺りまでお湯に潜った私に、おねぇーはただ一言、

「そっか。そうだよね……」

小さく言葉を零し、湯気で霞む天井を見上げたきり、もう口を開く事はなかった。


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