Do you love“me”?

「お前も見てた通り、美青は仕事が好きだったし、正直、悩んだ部分もあったよ」

「うん」

「でも、俺はあいつを連れて行きたいと思ったし、美青もついて来たいって思ってくれた」

「……それで、後悔した事は?」

「美青を向こうに連れてって?」

「うん」

「んー……」

そこで、一瞬考え込んだ航太君。


――でもきっと。

「してねぇな。全く」


そう言うと思ったよ。

だって、おねぇーも航太君も、いつだってあんなに幸せそうに笑っているんだもん。


「そっか」

小さく、溜め息交じりに吐き出された稜君の声に、私の胸がチクンと痛む。


「余計なお世話だけど、稜は美月さん連れて行くつもりは?」


ドクン――。


航太君の質問に、それまで以上に心臓が大きな音を立て、冷や汗のような変な汗が、じっとりと手の平を湿らせる。

戻らないと……。

早く、部屋に戻らないと。

そう思うのに、まるで根が生えたように足は動かないし、相変わらず自分の身体が言う事を聞かない。


そして、そんな私の耳に届いてしまった、稜君のその一言。


「連れては行けない」

「――……っ」

その瞬間、私の胸には握り潰されたような痛みが走って、気が付いた時には、頬を静かに涙が伝い落ちていた。


悲しいとか、淋しいとか……。

それが一体、どんな感情なのかさえ、もうわからなくて。

私はただ呆然と、その場に立ち尽くす事しか出来ない。


「そろそろバートがリハビリ終わって、戻って来るんだよ」

「らしいな。……で? バートの復帰と美月さん、関係あんの?」

「いや。俺の問題」

バートというのは、稜君のチームの、ケガをしていたMFだ。


「あいつがいない状態で、あれだけ試合に出してもらって……。自分では、それなりにチームに貢献したと思ってた」

大きな溜め息混じりのその声から、稜君の苦悩が十分過ぎるほどに伝わってしまう。


「だけど、次の契約も一年の期限付きだろ?」

「あぁ」

「“じゃー、バートが復帰したらどうなるんだ?”って……。“来期は、契約さえないんじゃないか?”って、正直怖くなった」


稜君……。

漏れそうなる嗚咽を、私は震える手で押さえて必死に飲み込む。


「美月ちゃんを向こうに連れて行きたい。傍にいてもらいたい。いつだってそう思ってるよ」

思いがけない稜君の言葉に、私は流れる涙を止める事が出来なかった。


嬉しいけれど、こんなに切ない。

あんなにも頑張っている稜君。

稜君の今の気持ちを考えたら、どうしようもなく胸が痛んだ。


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