Do you love“me”?
「あいつ、完全移籍が決まったら美月さんを向こうに呼びたいって思ってるんですよ」
「――え?」
「だからあんなに、周りが見えなくなるくらい頑張ってるんです」
そんな事、聞いてない。
聞いてないよ……稜君。
もしかしたらその話は、あの夜、私が部屋に戻ってから稜君が航太君に話した事なのかもしれない。
そんな彼の気持ちに、私の頬をまた涙が伝い落ちる。
「でも、別にそれを美月さんが気にする必要はないですよ。あいつが勝手にやってる事だから」
「……」
「あいつ、頑張り過ぎて今はちょっと空回ってるんですよ」
そう言って、航太君は少し呆れたように、でもすごく優しく笑う。
その言葉は、航太君だから言える事。
稜君の事をどこまでも理解している航太君だから、言えるんだ。
「航太君は、稜君が完全移籍出来ると思う?」
私はもちろん、出来ると思っている。
でも私は素人だから……。
――“プロから見て、どうなのか”。
それが知りたいと思った。
そんな私の耳に届いたのは、どこか楽しそうに笑う、航太君の声だった。
「全日本の司令塔をナメてもらっちゃ困りますよ。そのまま信じてて、大丈夫ですよ」
“今は辛いと思いますけど”と付け加えたものの、航太君がハッキリと言い切ったから、心が少し軽くなった気がした。
「航太君?」
「はい」
「航太君も、おねぇーに言えない事ってある?」
「へっ?」
突然の質問に驚いたのか、私の問いかけに、それまでの落ち着いた口調からは想像が出来ないくらい素っ頓狂な声を上げる。
「ある?」
「まぁ……ありますケド」
「それは何で?」
私のその質問に、航太君はちょっと考え込んだ後、
「美青は、最後の砦なんで」
笑いながら、そんな言葉を口にした。
「“最後の砦”?」
「俺も男だから、やっぱり美青の前ではカッコつけたいんですよ」
「航太君が?」
「そうですよー」
そう言って、クスクス笑う。