Do you love“me”?


稜君が向こうに戻って数日は、やっぱりいつも以上に淋しくなる。

離れっぱなしだと、何とか耐えられるのに、あんなにも傍にいて、急に離れてしまうと“やっぱり淋しいのだ”という事を、嫌という程思い知らされる。


数日間は鬱々としながら過ごしていたけれど、どうやら時々は良いことも起きるらしい。

今朝、ダメ元で連絡してみたイギリスにいる大学時代の友達から、嬉しいメールが届いた。


それは、その子の伝手《つて》で、“正規職員ではないけれど、イギリスにある日本語学校の講師の仕事を紹介出来そうだ”という内容の物だった。

これで向こうに渡っても、無職という事はなくなった。

けれど、会社にいる間も、何度も何度も溜め息を吐いて考え込んでしまう。


お給料は思いっ切り下がるけれど、今はそれどころじゃないし……。

かと言って、そんなに簡単に、それに飛びついてもいいものか。


それに、今が“その時”なのか。

あの時の航太君の言葉も、ずっと引っ掛かっていたのだ。


「佐々木さん」

「は、はいっ!」

突然かけられた声に、また少しボーっとしていた私が驚いて視線を上げると、そこには小さく溜め息を吐く杉本さんの姿があった。


「最近、ボーっとしてる事が多いね」

「……すみません」

「仕事の後、少し話そうか」

「……」

仕事の後?

彼の口をついて出た一言に、以前の杉本さんの事が頭を過ぎって言葉に詰まる。

だけど、少し警戒した私に向けられたのは、“杉本マネージャー”の顔だった。


「上司として、仕事の話をしたいんだけど」

「わかりました。……すみませんでした」

以前の杉本さんの行動を考えると、少し癪に触るけれど、今は仕事中だ。

自分の集中力のなさを棚に上げて、私は何を考えているのだろう。


「じゃー、また後で」

「はい」

去って行く杉本さんに、もう一度頭を下げた私の口からは、また大きな溜め息が漏れた。


“頑張り過ぎて、空回ってるんですよ”

ふと頭に浮かんだのは、稜君の話をしてくれた時の航太君の言葉。


「私もちょっと、空回ってるのかも」

それを思い出した私は、自嘲気味に笑った。


< 339 / 397 >

この作品をシェア

pagetop