Do you love“me”?


――だけど。

「なに……これ」

会社を出て駅に着いた瞬間、目の前に広がるその光景に唖然とした。

改札はたくさんの人でごった返していて、駅員さんが群がる人達に、忙しそうに何か事情を説明している。


慌てて視線を上げた私の目に映ったのは――

“雪の為 全線遅延”

電光掲示板の、そんな文字。


見上げる文字に、心臓が何かを警告するようにドクドクと脈打ち始める。

どうしよう。

時計に視線を落とすと、もう二十時二十分を指していた。

電車だと十分ちょっとで着くのに……!!

だけど、今はそんな事を言ってても仕方がない。

私はすぐに踵を返し、駅の外に出た。


さっきから、心臓が自棄にうるさい。

そのせいかは判らないけれど、駆け出した足元がフラフラする。


外に出て急いで向かったのは、いつもは閑散としているタクシー乗り場。

「嘘……」

そこで私の目に映ったのは、電車の遅れのせいで、タクシーを待つ人達の長蛇の列だった。

列は幾重にも折り返しを繰り返していて、これでは乗るまでに何十分かかるかわからない。


どうしよう。

ゴクリと呑み込んだ唾の音が、耳元で大きく響く。


慌てて開いた携帯の“20:30”という文字が、また私の鼓動を速くして、思考をドンドン奪っていく。


「とにかく……電話」


“川崎 稜”

久し振りに呼び出したその名前に、ボタンを押す指先が震える。

ゆっくりとそれを押し、耳に当てたところで動きが止まってしまった。


「……え?」

当然、耳に届くだろうと思っていた呼び出し音が聞こえない。

その代わりに届いたのは、秀君と付き合っていた時に嫌というほど聞いた、あのアナウンス。


どうして?

かけ間違えたのかと思って、切れてしまった携帯をまたタップする。

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