Do you love“me”?

「でも、飛行機のチケットは? 自分で?」

抱きしめられたままの私の耳に、稜君の少しくぐもった声が響く。


「あっ! あのね、実は杉本さんが」

「“杉本さん”?」

「あの、稜君のマンションで会った」

少しの気まずさから、モゴモゴとその名前を口にした私を、稜君は温かい腕の中からバッと引き剥がす。


そして――

「あのストーカーヤロウ」

暴言を吐きながらも、何故か悔しそうに、自分の前髪をクシャリと掴んだ。


「りょ、稜君? 何ごと?」

彼の行動の意味が全くわからない私は、目を瞬かせて、少し赤くなっている顔を覗き込む事しか出来ない。

そんな私に、稜君は驚くべき事を口にしたのだ。


「あの日、美月ちゃんの会社で、あいつに会った」

稜君の言う“あいつ”というのは、話の流れ的に杉本さんだと思うのだけれど。


「あの日、携帯忘れて美月ちゃんに連絡出来なくてさ。時間が過ぎて空港に向かったんだけど、どうしても諦めきれなくて……。途中で引き返して、美月ちゃんの会社に寄ったんだよ」

「え?」

思いもよらない彼の言葉に、私は目を大きく見開いた。


「表はもう閉まってたから裏に回ったら、扉の前で、あの男に会った」

「そんな事――」

杉本さんから、聞いてない。

どうして教えてくれなかったの?


「何か俺、その時すごい怒られた」

「“怒られた”?」

「そう」

顔を顰める私とは対照的に、稜君は何故かちょっと困ったように笑っている。

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