僕の女神、君の枷~幸せって何だろう?
あたしとあたしの家族の事情とは無関係に、その頃世の中では大変なことが起こっていた。
そう、それは二〇〇八年九月に起きた大事件。
アメリカの投資会社リーマンブラザーズの経営破綻。
パパは銀行の投資部の部長だったから。
例外にもれず、パパの部署でも多額のサブプライムローンを組み込んだ商品を扱っていたらしい。
パパはその責任者で。
その損失の実態と責任の所在を追及され、日を追うごとに疲れ果て、追い詰められていたらしい。
らしい、なんて随分と無責任なって思われちゃうかもしれないけど。
あたしとパパの接点は、朝、顔を合わせる数十分だったんだもん。
『おはよ、パパ。なんか、顔色悪くない? 睡眠時間足りてる? お酒もほどほどにしないと』と、こんな感じであたしが言えば、『お父さんは大丈夫だ。好美は自分のことを心配しなさい』って感じ。
パパが娘のあたしに弱音なんて吐く筈もないし。
だから詳しい事情もわからず仕舞いだった。
今から思えば、パパのストレスはきっと頂点に上りつめてたんだろうな。
あの夜も。