僕の女神、君の枷~幸せって何だろう?
『ここ、年越し派遣村では、年末から年始にかけて、公的相談機関の休みになる間、代わりに生活・職業相談も受けられます。炊き出しと簡易宿泊所も用意されています。兎に角、一人にならず、ここを目指して来てください。義援金とボランティア受付も同時に行っています。みんなでこの問題を共有しましょう』
語気強まるアナウンサーの声に、やっと状況を飲み込んだ僕は、後ろを振り向いた。
「弘美さん、僕、行かないと……」
エプロンをはずし、拳を握り締めて、僕は決意を口にした。
「以前の僕がここにいるんです。見て見ぬふりはできません。僕にできることを手伝ってきます」
一緒にテレビに見入っていた弘美さんは、事態を直ぐに了解して頷いた。
「うん、わかった、気をつけて。後のことは気にしないで」
「すいません」
「あ、これ、あたしの分の義援金、持っていってもらえるかな」
彼女はバックの中から財布を出すと、一万円札を一枚抜き取り、綺麗に畳んで差し出した。
「了解」
僕はそれを受け取ると、コートを片手に玄関へと急いだ。
気ばかりが焦って、僕はその時、大事な何かを見落とした。