僕の女神、君の枷~幸せって何だろう?

「あ、多分帰りは朝になると思うから、戸締り、気をつけて下さいね。それから、洗い物すいません。おせちは見繕って買ってあるんで、お重に詰めといてもらえますか」

「うん、うん、わかったから、大丈夫だって、まかせといて」

いつになく焦ったような相槌と、上ずった声。

「と、弘美さん、一緒に年越せなくて残念です……」

僕は、急かす弘美さんを遮って、その時初めて彼女の変化に気が付いたんだ。

「また、来年もあるって……」

そう口にした弘美さんは、とても苦しそうで。

彼女はそのまま、顔を埋めるように僕を抱きしめた。

「気をつけてね。帰ってくるの待ってるから」

彼女は抱きしめる手を少し強めて、しっかりとした口調で僕にそう告げた。


突然の抱擁に、僕は彼女を抱きしめ返すことができなくて……


なんで、今?

この状況で。


僕の思考は、そこで一瞬止まって空回りした。
< 187 / 298 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop