僕の女神、君の枷~幸せって何だろう?
「あっ、そろそろホームに上がった方がいいかも。はい、これ、お母様にお土産。電車の中で食べるサンドイッチとジュース。くれぐれも、慌てず、少しずつ、よく噛んで、ゆっくり食べること」
彼女は、そう言いながら僕に紙袋を渡した。
そして、ゆっくりと立ちがると、僕の先を新幹線改札向かって歩き出した。
「じゃ、気をつけて、ちゃんとリセットしてきてね」
彼女は、僕を改札へ押し込むと、にっこり笑って小さく手を振り、そのあとくるりと背をむけた。
彼女はそのまま何事もなかったように歩き出した。
僕は、もう一度女神の顔を見たいと願った。
その場に立ち尽くし、彼女の背中に視線を送った。
(弘美さん……)
心の中で、彼女の名を呼んだ。
でも、僕の願いは叶わない。
神様なんて元々居る筈もない。
僕の願いも空しく、彼女の姿は、駅の雑踏にズンズンと吸い込まれて消えていった。
僕は女神を見失った。