僕の女神、君の枷~幸せって何だろう?
「あら、ごめんなさい」
箱を蹴ったのは、中年の女性だった。
彼女は本当にすまなさそうにそう言った。
そして、中腰になって小銭を拾い集め始めた。
僕はその姿を、ただじっと見つめていた。
「う~ん、これで全部かしら……」
彼女がゆっくりと身体を起こした。
左手に水色の空き箱、右手には小銭を握りしめて。
その瞳が僕の胸元でピタリと止まった。
「ねぇ、君、秋田の大曲ってとこまで、いくらかかるの電車賃」
今度はゆっくりと、その視線が僕に注がれた。
まるで迷子の子どもに語りかけるような、そんな大人の語り口で、彼女は言葉をつなげて言ったんだ。
「ねぇ、この小銭じゃ無理だよね」
僕は小さく頷いた。
そんなこと、わかっていた。
わかっていたけど、僕にはどうすることもできやしないじゃないか。