僕の女神、君の枷~幸せって何だろう?


僕は生まれ変わった。


新しい服に身を包まれ、産着を着せられた赤子のように。

いや、ただそんな気がしたんだ。

僕は必要なものをポケットから抜き取ると、着ていた汚れた服を丸めて紙袋に突っ込んだ。

トイレのゴミ箱は小さくて、服を入れた紙袋など到底入りそうもなかったけど。


(こんなものっ……)


それでも僕は懇親の力を振り絞り、力づくでそれを押し込めた。


少しだけ荒げた息を整えようと、ふと見上げた手洗いの前の鏡に目が留った。

あまりに浮浪者然とした自分の姿に驚いた。

慌ててボサボサの髪を手グシですいて撫で付けてみる。


(櫛があればいいんだが……)


髭もかなり伸びていた。

現実に気付いた途端、急に自分の姿が不安になった。

鏡に映った僕は、どう見てもやつれた中年男にしか見えなかったのだ。


(俺っていくつだっけ?)


それは確かに自分であるはずの他人だった。

こけた頬、窪んだ目、目立つ白髪、カサカサにひび割れた肌。

そこに見たのは、別人のように老けた自分の姿だったのだ。

だが、今ここで、この顔を取り替える訳にもいかない。

僕は今のこの自分を肯定するしかないのだ。

僕は諦めに近いため息を一つついた。
< 9 / 298 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop