僕の女神、君の枷~幸せって何だろう?

僕は、この時悟ってしまった。

母が何故、戻ってこない父に恨み辛みの一言も言わなかったのか。

それは、父が必ずいつか自分の所に戻って来ると信じていたからだったんだ。


「事情ったてさ、金か女かのどっちかでしょ? やっぱり、逃げられたってことじゃない」

「違います。信幸さんは、そんな人じゃあありません」


母はそう言ったきり、口を噤んだ。

その後も、由紀子叔母さんという人は、なんやかやと母のことを蔑むようにからかったけど、彼女は、そんな一切の言葉をただ聞き流した。

双子というのは、見た目は同じでも性格は違うんだな、と僕は思った。

由紀子叔母さんは、見た目はお淑やかな奥様風で、何不自由ない上品さを醸し出していたけれど、言葉や態度は辛らつで攻撃的だった。

母の控えめで無口な性格を、そのまま真逆にしたような。

彼女が動なら、母は静。

彼女が悪魔なら、母は天使。

って、それは言いすぎか……

でも僕にはその位、二人の性格は対照的に見えたんだ。
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