限りない時代の如し~時ヲ越エタ桜ノ木~
「そなた、妖怪退治の女侍…珠紀とお見受けした」
「…人違いではなかろうか」
あたしのすぐ後ろから聞こえる低い声。
名高いあたしに果たし状を送りつける者、直接挑んでくる者…
そんな者は幾度となく交わしてきたが、とびきり拙い匂いがする。
「その美しい容姿と気高い振る舞い…間違う訳があるまい」
「…まさか、貴様ほどの野蛮から褒め称えられるとはな…」
あたしは梓と共に振り向く。
男は無精ひげをはやした色の濃い身なりをしているくせに、醸し出す雰囲気は異様である。
「さあ、馬から下りて、それがしと一手し合うてもらおう」
「…仕方あるまい」
あたしが梓から下りようとした瞬間、男は飛びかかる。
刀が重なる音だけが野原に響く。
昼の山に群がる雲と共鳴し合う。
「…貴様、本当に人間か…?」
「何を言っているのか分からぬな…」
あたしは見つけた。
この男の目の奥にある黒い憎悪を。