籠鳥~溺愛~
 鏡哉はそう言うと、鉄剤の瓶から数錠取り出し美冬に飲ませた。

 白い喉がこくりと錠剤を嚥下する。

 その時、鏡哉は胸を突き動かされた。

(駄目だ、この子を、美冬を離したくない――)

 何故だか分からない。

 こんな年端もいかない子供を、この部屋から世間の荒波へ放り出したくなかった。

 今離れたら二度と会えない、そんなわけないと思うのだが、ただ強くそんな気がした。

「……くさい」

「へ?」

「美冬ちゃん、君ちょっと匂うよ」

 鏡哉は立ち上がって真面目な顔でそう言う。

 いきなりの話の展開に付いていけていない美冬だったが、やがてくんくんと自分の制服を匂いだす。

「え~、そうですかね? すみません、今すぐ帰りますから!」

 美冬は焦って立ち上がろうとするが、鏡哉は大きなテーブルを回り込んで美冬の傍へ寄ると、美冬をさっと抱き上げた。

「え? えっ? 新堂さん?」

 急に横抱きに持ち上げられた美冬は、目を白黒させて鏡哉に呼びかける。

「風呂沸かしてあるから入りなさい。ちゃんと洗うまで出てきちゃだめだ、分かった?」

 鏡哉は有無を言わさぬ口調でそう言いながら広い部屋を横切り、バスルームへと入った。

 中は広い洗面室、ガラス張りのシャワールームと、外がみられる窓のあるジャグジーがあった。

 美冬はまた贅沢な作りのバスルームに口をぽかんとあけている。

 鏡哉は美冬を洗面室の椅子に腰かけさせると、てきぱきとタオルを用意しだす。

「あ、あのう……」

「着替えはとりあえずこのバスローブ着て。じゃあ」

 そう言い残して鏡哉はさっさとバスルームを出てってしまった。

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