籠鳥~溺愛~
「だから家政婦。美冬ちゃん一人暮らしだろう? 家事できるんじゃない?」
炭酸を手に固まってしまった美冬の手からグラスを取り上げると、鏡哉は大きなローテーブルにそれを置いた。
「そ、そりゃあ、一通りのことは出来ますが――」
「じゃあ、決まり。君はこれから私の家政婦としてここに住み込んで身の回りの世話をしてもらう。ちょうどよかった。通いの家政婦がいるんだが、住み込みのほうがいろいろ助かるから」
「………」
(……嘘だよね? 冗談だよね、新堂さん)
大きな瞳を瞬いて美冬は鏡哉を見つめる。
「君にとって悪い話じゃないと思うんだけど? 勤務時間は朝起きてから学校へ行くまでと、帰宅してから夜の21時まで。後は勉強するなり好きにしてくれればいい」
月給は――っと鏡哉が電卓を弾いて出した金額は、大卒の新入社員が貰える額を遥かに超えて良いものだった。
「ええっ! そんな、そんなにもらえません! っていうか、私なんかきっとお役に立てないですよ。私、料理は和食ばかりで、新堂さんみたいに凝った料理作れませんし!」
「和食? 私は和食は作らないんだ。だから君ができるならちょうどいい」
鏡哉は有無を言わさぬようにそう言い切ると、立ち上がって電話を取りに行った。
戻ってきた鏡哉は放心したように座っている美冬の前の絨毯に跪くと、そっと両の掌を取った。
鏡哉の温かい体温が指を通して伝わってくる。
「君はもっと自分のことを大事にすべきだ。大学に行きたいからと言ってバイトばかりしていては勉強はおろそかになるし、まず何よりも君の体がまいってしまう」
「で……でも――」
「でもじゃない。ちゃんとよく考えて。君はこのままで本当に念願の大学に行けると思っているのか?」
鏡哉の真摯な瞳が美冬の胸を突く。
確かにバイトばかりで中学のころは主席をキープしていた成績は格段に下がった。
またバイトに明け暮れていると、本当は何のために頑張っているのか自分でも分からなくなってきた。
ただその日を懸命に生きるだけで、それだけに疲れ果てせっかくの学校の授業中に居眠りをしてしまう。
(学びたい、本当に私、色んなこと学びたいのに――!)
思わず縋るように鏡哉の掌を握っていた。
「決まりだな。いいね?」
顔を上げると鏡哉が小さく微笑んでいた。
初めて見る鏡哉の微笑み。
その微笑みに促されるように、美冬はこくりと頷いていた。
「じゃあ、バイト先に電話しようか。携帯持ってるか?」
美冬は首を振る。
鏡哉から手渡された電話の子機で、一年間お世話になったバイト先にそれぞれ平謝りで辞める旨電話をかけた。
炭酸を手に固まってしまった美冬の手からグラスを取り上げると、鏡哉は大きなローテーブルにそれを置いた。
「そ、そりゃあ、一通りのことは出来ますが――」
「じゃあ、決まり。君はこれから私の家政婦としてここに住み込んで身の回りの世話をしてもらう。ちょうどよかった。通いの家政婦がいるんだが、住み込みのほうがいろいろ助かるから」
「………」
(……嘘だよね? 冗談だよね、新堂さん)
大きな瞳を瞬いて美冬は鏡哉を見つめる。
「君にとって悪い話じゃないと思うんだけど? 勤務時間は朝起きてから学校へ行くまでと、帰宅してから夜の21時まで。後は勉強するなり好きにしてくれればいい」
月給は――っと鏡哉が電卓を弾いて出した金額は、大卒の新入社員が貰える額を遥かに超えて良いものだった。
「ええっ! そんな、そんなにもらえません! っていうか、私なんかきっとお役に立てないですよ。私、料理は和食ばかりで、新堂さんみたいに凝った料理作れませんし!」
「和食? 私は和食は作らないんだ。だから君ができるならちょうどいい」
鏡哉は有無を言わさぬようにそう言い切ると、立ち上がって電話を取りに行った。
戻ってきた鏡哉は放心したように座っている美冬の前の絨毯に跪くと、そっと両の掌を取った。
鏡哉の温かい体温が指を通して伝わってくる。
「君はもっと自分のことを大事にすべきだ。大学に行きたいからと言ってバイトばかりしていては勉強はおろそかになるし、まず何よりも君の体がまいってしまう」
「で……でも――」
「でもじゃない。ちゃんとよく考えて。君はこのままで本当に念願の大学に行けると思っているのか?」
鏡哉の真摯な瞳が美冬の胸を突く。
確かにバイトばかりで中学のころは主席をキープしていた成績は格段に下がった。
またバイトに明け暮れていると、本当は何のために頑張っているのか自分でも分からなくなってきた。
ただその日を懸命に生きるだけで、それだけに疲れ果てせっかくの学校の授業中に居眠りをしてしまう。
(学びたい、本当に私、色んなこと学びたいのに――!)
思わず縋るように鏡哉の掌を握っていた。
「決まりだな。いいね?」
顔を上げると鏡哉が小さく微笑んでいた。
初めて見る鏡哉の微笑み。
その微笑みに促されるように、美冬はこくりと頷いていた。
「じゃあ、バイト先に電話しようか。携帯持ってるか?」
美冬は首を振る。
鏡哉から手渡された電話の子機で、一年間お世話になったバイト先にそれぞれ平謝りで辞める旨電話をかけた。