籠鳥~溺愛~
 今起こったことが信じられないといった様子の美冬だったが、数分後、すくっと立ち上がった。

「で、では私、さっそく仕事をして――」

 そう言い終わらぬうちに美冬は鏡哉に抱きかかえられていた。

「バカなことを言うな。今日はもう寝なさい。まだ顔色が青白い」

「いえ、そんなわけには! 貴方は、新堂さんはもう私の雇い主です!」

 美冬は鏡哉の腕の中でそう言い募る。

 美冬のための部屋の入りベッドの上に彼女を下すと、美冬はすぐに立ち上がろうとする。

「そうだなあ、じゃあ初の仕事を与えよう」

「なんですか?」

 美冬は身を乗り出して聞いてくる。

 その様子がとてつもなく可愛らしい。

「私のことを鏡哉と呼ぶように」

「は、はい。鏡哉様」

 とっさにそう口にした美冬に、鏡哉は苦虫をかみつぶしたような表情になる。

「冗談だろう。鏡哉でいいって」

「え、む、無理ですよ。呼び捨てなんて!」

 目の前で必死に手を振って美冬は抵抗する。

「雇い主命令なのに?」

「え~~、じゃあ、鏡哉さんで……?」

 困り果てたように言い募る美冬に、鏡哉は肩をすくめてしぶしぶ了承した。

「わかったそれでいい。じゃあ、ちゃんと寝るんだよ。なんかあったら呼びなさい」

 鏡哉は上掛けを美冬にかけ直すと、その上からポンポンと叩く。

(あ、なんかお父さんみたい――)

 小さいころそうされたことを思いだし、なぜだか涙が出そうにな

る。

 気恥ずかしくて鼻のあたりまで上掛けを被ると、鏡哉に頭をなでられた。

「おやすみ」

「おやすみなさい……」

 鏡哉が静かに部屋から出ていくと、よほど体が疲れていたのか美冬はすぐに眠りについた。
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