籠鳥~溺愛~
 翌朝。

 美冬は目を覚ますとはっと時計を確認する。

 6時。

(良かった――さすがにこの時間に鏡哉さんはまだ起きていないだろう)

 音をたてないようにそっと部屋から出ると、死角になっていて見えないキッチンのほうから人の気配がした。

 もう起きていたのかと焦ってキッチンに顔を出すと、コーヒーメーカーを弄っている鏡哉と目が合う。

「おはよう、美冬ちゃん」

「おはようございます! 今朝食お作りします」

「駄目だよ、君病人なんだから」

「いえ、もうぜんぜん大丈夫です」

 そう答えた美冬の返事は嘘ではなかった。

 昨日の食事と鉄剤が効いたのか、低かった体温も戻り顔色もいい。

 鏡哉は背の低い美冬の顔を覗き込むと「本当だ、顔色いい」と少し笑った。

 美冬はというと初めて見る、薄手のニットとデニムという鏡哉のスーツ以外のラフな姿に目を奪われる。

(わあ、やっぱり綺麗な男の人だなあ。毎日目の保養になっちゃう)

 すらっと背の高い鏡哉はモデルのように均整のとれた体つきをしていた。

(それに比べ、私ってば、とほほ……)

 自分の頼りない体を恨めしながら、美冬は見つけた冷蔵庫を開ける。

「本当に作ってくれるの?」

「もちろんです。家政婦ですから」

 「あるもの全部使っちゃっていいから」と言われ、美冬は野菜室から適当に野菜を見繕い、具だくさんの味噌汁、焼き魚、おひたし、だし巻き卵っと、手際よく作っていく。

 対面キッチンのカウンターで興味深そうに美冬を覗いていた鏡哉は、その手際の良さを褒めてくれた。

(こんなのでいいのかなあ?)

 ダイニングテーブルに並べた料理の品を見て、美冬は疑問に思う。

 鏡哉の作ってくれた洋食のように綺麗でもなく、ありきたりの食事。

 舌の肥えていそうな鏡哉の口に合うのかと、美冬はごくりと唾をのみこんで、彼が味噌汁をすするのを見つめた。

「うん、美味しい。ちょうどいい味」

 視線を合わせて褒めてくれる鏡哉に、美冬はほっと胸をなでおろす。

「本当ですか、よかったです」

 美冬も手を合わせてから料理を口に運ぶ。

 いつもよりいい食材を使っているからか、上出来だった。

 ご飯がおいしく感じるのはそれだけではないのかもしれない。

 いつも一人でご飯を食べていた美冬には、誰かと話しながらご飯を食べることだけでも幸せだった。
< 15 / 41 >

この作品をシェア

pagetop