籠鳥~溺愛~
 左ハンドルのベンツに乗せられ、車には不釣り合いな県立高校に辿り着く。

 来賓用駐車場に車を止めるとそこにいた生徒の殆どが足を止め、降りてきた鏡哉を見つめた。

「なに、あのかっこいい人」

「誰かの保護者?」

 皆が口々にはやし立てる。

 その声が届いていた美冬は、恥ずかしくて車から降りれなかった。

(やっぱ思った通りだ~~! 鏡哉さん、超目立つんだもの!!)

 助手席で小さくなっていた美冬を見て、先に降りた鏡哉は不思議そうに助手席のドアを開けた。

「どうした? やっぱり体調悪いのか?」

 心配そうにこちらを覗き込む鏡哉と目があう。

「い、いいえ。ただ恥ずかしいだけで……」

 ごにょごにょと語尾を濁した美冬に、鏡哉は何てことなさそうに答える。

「ああ、君たち高校生からしたら私はもうおじさんだもんな。でも恥ずかしい思いをさせて悪いけど、ここにいてもしょうがないだろう?」
 
「なっ! お、おじさんなんて滅相もないです!」

 とっさにそう言い返した美冬を、鏡哉は手を引っ張って車から降ろさせた。

「え、誰あの子?」

「え~、知らない」

 皆の視線が痛かったが、美冬は我慢して先を歩いていく鏡哉の後をすごすごとついて行った。

 受付で要件を伝えると、すぐに校長室へと案内された。

 校長室に入るなど、美冬は初めてだった。

 どきどきと高鳴る心臓のまま、鏡哉がすらすらと事の成り行きを説明していくのを聞いている。

「しかしねえ、血縁関係もない貴方がいきなり保護者だといわれてもねえ」

「ご心配は承知しています。あ、申し遅れましたが、私はこういうものです」

 鏡哉が懐から名刺を取り出し、恭しく校長に手渡す。

 校長は最初はふんという感じで名刺を眺めていたが、急に小さな目を大きく見開いて、名刺と鏡哉を交互に見比べた。

「えっ!? 貴方が、あの?」

 校長の様子に美冬は内心首を傾げる。

「し、失礼いたしました。鈴木君、これからも新堂さんの言うことをよく聞いて、勉学に励みなさい!」

 いきなり手のひらを返した校長と涼しげな顔をした鏡哉に、美冬だけが取り残されるが、鏡哉に手を引かれ校長室を後にした。

「良かったな。納得してもらえたみたいで」

「……名刺に何か書いたんですか?」

 不思議そうに美冬が尋ねる。

「いいや、なんにも。じゃあ16時に迎えに来るから、正門の前で待っているんだぞ」

 鏡哉はそう言うと美冬を一人残して学校を後にしてしまった。
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