籠鳥~溺愛~
 その後、教室でクラスメートから「あの素敵男性は誰だ?」と質問攻めにされた美冬は、適当に「遠縁の人」と明言を避けた。

 授業が終わりほっとして帰ろうと校舎を出ると、正門に見慣れぬ黒い大きな車が止まっていた。

「なあ、あれってリムジン?」

「すご~い、私初めて見た!」

 嫌な予感がして走って正門に辿り着くと、そこには見知らぬスーツ姿の男性が立っていた。

(あれ……鏡哉さんじゃなかった?)

 腕時計を見ると16時を回っていた。美冬はきょろきょろとあたりを見回すが、そこにいる車はそのリムジンだけだった。

 そのとき後部座席の窓が開き、中から鏡哉が顔を出した。

「おかえり、美冬ちゃん。乗って」

「鏡哉さん!」

「ああ、貴女が美冬様でしたか。どうぞ」

 車のわきに立っていた男性は、そう言うとにっこりと笑って後部座席のドアを美冬のために開けた。

「え、あ、はい!」

 促されて乗り込むと、黒い革張りの車内は6人は乗れるほど広々としており豪華だった。

「出してくれ」

 鏡哉の指示で車が動き出す。

 助手席には先ほどの男性が、運転席には運転手が座っている。

「き、鏡哉さん? なんですか、この車!」

 落ち着きなく浅く腰掛けた美冬は、あわあわと鏡哉に尋ねる。

「ああ、これ? 社用車なんだ。この車のほうが私のベンツより大きくて、たくさん荷物が運べるだろう?」

(た、たしかに、段ボール何個も入りそうだけど――っていうか、リムジンに段ボールって似合わない……それより何より、セーラー服の私が似合わない)

「す、すみません。何から何まで――」

 美冬はひたすら恐縮して縮こまる。

 今更ながらに自分はとんでもない人の家政婦をしているのだと、美冬は自覚した。

 美冬のマンションに到着すると、美冬は急いで当面の生活用具と服を見繕い段ボールに詰めた。

 それでも切り詰めた生活をしていた美鈴の荷物は、段ボール2つ分にしかならなかった。

 荷物を載せて車を鏡哉のマンションへ向かわせると、鏡哉は美冬に振り返った。

「少ないな。今週末、服買いに行くぞ」

「え……ええ~~っ!?」

「なんだ、いやなのか?」

「嫌というか、私はただの家政婦なので、そんなお気遣いは――」
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