籠鳥~溺愛~

「いいのいいの、社長のやりたいようにやらせてあげて下さい。この人、言い出したら聞かないから」

 いきなり今まで黙っていた助手席の男性が口を開いた。

「申し遅れました、私、秘書の高柳と申します。美冬様、以後お見知りお気を」

「見知っとかなくていい」

 鏡哉は苦い顔でぼそっと呟く。

「あ、こちらこそ。鈴木美冬です。あの、様はやめてもらえませんでしょうか?」

 ただの家政婦に様付けで呼ぶなど、どう考えてもおかしい。

「じゃあ、美冬ちゃんで。いいですか社長?」

「……勝手にしろ」

 そんなやり取りをしていると、リムジンはマンションの前に到着した。

 荘厳な車寄せに止められ、そとからホテルのドアマンのような男性にドアを開けられる。

「お帰りなさいませ、新堂様」

「荷物があるんだ、運んでおいてくれ」

「かしこまりました」

「え、自分で運びますよ?」

 慌ててそう言う美冬の手を取って、鏡哉は車から降りる。

「社長、では明日は朝一から会議ですので」

「わかった。ご苦労さん」

 高柳はそう言い残して、リムジンで去って行った。

「君はこっち――」

 手を引かれて連れて行かれたのは、マンションに併設されているいかにも高級そうなスーパーだった。

「このカードを渡しておくから、これからはここで買い物するといい」

「は、はあ……」

 ようやく手を放した鏡哉は、胸から財布を取り出し部屋番号が書かれたカードを抜き取って美冬に渡した。

「どうした?」

「い、いえ。ほんとホテルみたいだなあと」

「そうか?」

「え、ええ。ところで、今夜何か食べたいものはありますか?」

 背の高い鏡哉を見上げてそう尋ねる。

「そうだなあ……鍋、かな」

「え、そんなのでいいんですか? もっと手の込んだものを用意しますよ?」

「いいんだ。今日寒いし」

 鏡哉はそういうと、カートに籠をセットして歩き出す。

「あ、自分一人で買い物しますよ? 鏡哉さんは先にお部屋で休まれては?」

「いいよ、部屋にいても暇だし」

 鏡哉はそう言ってめぼしい食材をぽいぽいと籠に放っていく。

 大きなハマグリ、有頭エビ、カニなどなど。

(た、高っ!!)

 思わず確認してしまった値札に、美冬は度肝を抜かれる。

 あっけにとられている間に買い物が終了し、鏡哉はレジで部屋まで運ぶように頼んでエレベーターに乗り込んだ。

(う~ん、世界が違いすぎる)

 ぼ~っとしていると、鏡哉が美冬を覗き込んでいた。

「明日からはあんまり付き合えないんだが、一人で大丈夫そう?」

 少し心配そうに尋ねてくる鏡哉に、美冬はぶんぶんと首を振ってうなずいた。



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