籠鳥~溺愛~
 部屋に戻ると既に段ボールが運び込まれていた。

 鏡哉に促されて自分にあてがわれている部屋に荷物を片付ける。

(ほんとに私、ここに住み込むんだな~)

 整理はすぐさま終わり、制服から私服に着替えてリビングに顔を出すと、ソファーに座った鏡哉がノートパソコンを見つめていた。

「あ、終わった?」

「はい。鏡哉さん、お仕事ですか?」

「いや、メールチェックしてただけ。じゃあ、掃除しようか」

 鏡哉はそう言うとノートパソコンを閉じて立ち上がった。

「え? 一人でできますよ、掃除くらい……と言いますか、私の仕事ですし」

「いいのいいの、二人でやったほうが早いし」

 鏡哉は掃除用具の置き場を教えると、ハンディーモップを持って掃除し始めた。

(優しい人なんだな――)

 美冬はあまりに拒むのもあれで、言われた通り掃除に取り掛かる。

5LDKの部屋の掃除は1時間以上かかった。

 手早く海鮮鍋の準備を済ませると、ダイニングではなくリビングのローテブルにセットする。

 そして当たり前のように鍋をつつき始めて、美冬ははたと我に返る。

「あ、そういえば私って家政婦ですよね?」

「うん、一応」

「なんで一緒にご飯食べているんでしょうか?」

「いいんじゃない、私が良いと言ってるんだから」

(そ、そういうものかな?)

 美冬は少し引っかかったが、元来あまり深く物事を考え込まないタイプであり、あっさりと鏡哉がいいならいいかと食べた。

 片づけをするのも鏡哉は手伝ってくれ、あっという間に片付いた。

「後は自由にしてくれてていいよ、勉強あるでしょう?」

 時計を見ると20時だった。

 まだ勤務時間まであると美冬は言ったが、鏡哉は「ここで勉強しなさい」と言って聞かなかった。

「僕もここで仕事するから、何かわからないところあったら聞きなさい」

「はい、ありがとうございます」

 美冬はお言葉に甘えて出されている宿題に取り掛かる。

 高校に進学し、バイトを始めてからというもの、復習の時間が取れず成績は下降気味だった。
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