籠鳥~溺愛~
(か、からかってる……鏡哉さん、絶対私をからかって楽しんでる!)

 その夜以降、鏡哉はなにかと美冬にキスをするようになった。

 美冬も隙を作らないよう気を付けているのだが、いかんせんいつも一緒にいるのだ、どうしても隙ができてしまう。

(まあ、唇には絶対してこないから、私のファーストキスは死守できているんだけれど――)

 チュ。

(ま、またされた……)

 朝食の準備をしていた美冬の後ろから、鏡哉が首筋にキスしたのだ。

 一瞬包丁を持ったまま振り返ってやろうかと思うが、思い直し包丁を置いて振り返る。

「鏡哉さん! 駄目ですったら」

「セーラーにエプロン姿がかわいくて可愛くて」

「家政婦にチューする雇い主がどこにいますか?」

 美冬のその抗議に、鏡哉は自分を指さす。

「って言うかなんでチューするんですか?」

 美冬が恥ずかしそうに涙目でそう訴えると、鏡哉は無表情で口を開く。

「所有のしるし?」

(しょ、所有のしるしって、子犬の首輪じゃないんだから――)

「わ、私、子犬じゃありませんから! さっさと食べちゃってください」

 二人はそんなことを言い合いながら朝食を済ます。

 鏡哉に弁当を持たせ、広い玄関まで見送りに行くと鏡哉が振り向いた。

「いってらっしゃいのキスでもしてくれるの?」

 意地悪そうな笑みを口元に浮かべ、鏡哉が小さな美冬を覗き込む。

「し・ま・せ・ん! もう、行ってらっしゃい!」

「ふ、行ってきます」

 鏡哉はそう言うと、楽しそうに部屋を出て行った。

 一人になった部屋で美冬は大きなため息をつく。

(はあ、いつまで続くんだろ、このキス攻撃は……)

 一緒に生活していた一年間、鏡哉は美冬をからかって楽しんでいた。

 今回も鏡哉がキスに飽きるまで我慢するしかないだろう。

 しかし、

(鏡哉さん、表情豊かになったな)

 初対面の頃、鏡哉はほとんど感情を表に出さない人だった。

 それが一緒に暮らし始めると少しずつ美冬に心を開いてくれたのか、よく笑うようになった。

(ま、飽きるまでなら、まあいっか……)

 美冬はそう諦めると、自分も学校へ行くための用意をし始めた。
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