籠鳥~溺愛~
 キーンコーンカーンコーン。

 就業のチャイムが鳴り、昇降口からは一斉に学生たちがはき出されてくる。

 鏡哉は校門に車を止めると、車内から美冬が出てこないかとメガネを掛け直して目を凝らした。

 美冬は小さいから見落としてしまうかもしれないと気を付けていたが、すぐに昇降口を出てくるところを見つけられた。

 車のドアを開け外に出る。

 こちらに歩いてくる美冬に声をかけようと口を開いた時――。

「鈴木さん、一緒に帰っちゃ駄目かな?」

 横から美冬に声を掛けた男子生徒が目に入った。

 声を掛けられた美冬は遠目にもわかる程大きな瞳を見開いていた。

「え……倉木先輩……あの?」

 明らかに美冬は困惑しているように見えた。

「いいじゃん、一緒に帰るくらい、行こう」

 そういった倉木という生徒は美冬の腕を取り、鏡哉の待っている方向へ歩き出した。

「は、はあ……」

 美冬はその手を振りほどくこともなく仕方ないという感じでついていく。

(何やってるんだ、あいつは――)

 鏡哉はいらっとして二人に近づいた。

 周りの生徒たちが鏡哉を見ていたが、一向に気にならなかった。

「美冬」

「鏡哉さんっ!?」

 いきなり目の前に現れた鏡哉に、美冬はびっくりした顔で相対する。

「こちらはどちらかな?」

 鏡哉はつかまれたままの美冬の腕を見ながら、美冬に尋ねる。

 倉木は慌てた様に手を放すと、怪訝そうに鏡哉を見つめる。

「く、倉木先輩です。同じ委員の先輩で――」

 美冬が機嫌の悪そうな鏡哉にぼそぼそと口を開く。

「ほう、それはいつも美冬がお世話になって」

「鈴木さん、この人誰?」

 倉木は美冬に尋ねる。

「鏡哉さんは私の――」

「保護者だ。悪いけれど、美冬は連れて帰るよ」

 鏡哉はそういうと美冬の腕をとって強引に引っ張った。

 あっけにとられて立ち尽くした倉木を無視し、鏡哉は美冬を車に乗せ、発車させた。
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