籠鳥~溺愛~
(ど、どどどどど……どおしちゃったの、鏡哉さんってば!?)

 あの後、鏡哉に強引に手を引かれて部屋に連れ帰られ、今、なぜかこんなことになっている。

 こんなこと――鏡哉の膝の上に横抱きで座らされているのだ。

「えっと……鏡哉さん?」

「なんだ」

「は、離してもらえませんか?」

「なんで」

「いや、掃除とか洗濯とかしなきゃ」

「そんなの後で一緒にやればいい」

「せ、制服、着替えないと……」

「可愛いから着替えなくていい」

(な、何言ってんだこの人――)

「皺になっちゃ……う!?」

 美冬はとっさに変な声を出してしまう。

 というのも鏡哉が美冬の膝小僧をさわりと撫でたからだ。

「スカート、短くないか?」

「み、みんなこんなもんです!」

「かわいい膝小僧と太もも、ほかの男に見せたくない」

 そう言って膝から太ももに鏡哉の掌が移動しそうになり、美冬は膝を合わせ、必死に抵抗した。

「だ、誰も見てませんからぁ!」

 心臓がバクバクする。

 もう何が何だか分からなくなってきて、美冬は必死に鏡哉を睨んだ。

「そんな瞳で見られても、男を煽るだけだぞ」

 鏡哉はそう言うと、片手でネクタイを少し緩めた。

 その姿が妙に色っぽくて、美冬はかあと頭に血が上ったように感じた。

「煽ってません!!」

「きゃんきゃんよく啼く子犬だ」

 鏡哉は嘆息交じりにそう言うと、美冬の顔に自分のそれを寄せる。

 鼻と鼻がそっと触れる。

(く、口にキスされる――!?)

 美冬はギュッと目を瞑る。

 ほほにメガネがかしゃりと触れたと思うと、口の端にチュッと吸い付かれた。

 鏡哉の顔が離れていくのが目を瞑っていてもわかる。

 恐る恐る瞼を開けると、そこにはいつも通りの意地悪な微笑みを湛えた鏡哉がいた。

「なに? 唇のほうがよかった?」

 くつりと嗤われた時、美冬の堪忍袋の緒がぶつりと切れた。

「……納豆」

「え?」

「……明日から毎日納豆食べてやる」

 鏡哉は納豆が嫌いだ。

 目の前で食べられるのも嫌がる。

 毎日納豆を食べていたら、鏡哉はきっと顔にはキスできないだろう。

「ふん、いいよ別に。それならそれで―-」

 鏡哉は何を思ったのか美冬の膝の後ろに置いていた手を持ち上げると、そっと膝小僧に吸い付いた。

「ひゃっ!?」

「ほかにもキスするところはいっぱいあるからね」

 そう言うと鏡哉は美冬をぎゅっと抱きしめた。

「わ、私の負けです……」

 腕の中で美冬が降伏して脱力するのを確認すると、鏡哉は満足そうに微笑んだ。




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