籠鳥~溺愛~
 くんくん……。

(ん、なんかいい匂い~~)

 微動だにせず眠りこけていた少女の鼻が小さく揺れる。

「くすり」

 頭上から誰かが笑った声。

 少女――美冬(みふゆ)は重い瞼を何とか上げると、ぼんやりと霞んだ眼を擦る。

「駄目だよ、こすっては」

 擦っていた腕を誰かに取られる。
 
 暖かい、自分の腕などすっぽりと掴まれてしまう大きな掌。

(ん……?)

 何度か億劫そうに瞬きし徐々に視界がクリアになった美冬は、その掌の主を見つめ寝転がりながら口を開いた。

「……お兄さん、だれ……ですか?」

 自分を見下ろしている人は、酷く冷たそうな容貌の男の人だった。

(この人がさっき笑ったの?)
 
「それより、お腹すいてないか?」

 美冬の質問には答えず鏡哉は質問を返す。

 ぐ~~。

 美冬の代わりにお腹が正直に鳴いた。

「くっ……起きられるか? 食事を用意してある」

 鏡哉は小さく一つ笑うと、恥ずかしさから真っ赤になった美冬の額に手を添えた。

「ひゃっ?」

 いきなり触れられて美冬は小さく肩をすくませる。

「熱はないな」

 鏡哉はなんてことはない様に手を引くと、起き上がろうとする美冬の背中を支えた。

 見慣れぬ大きなベッドの背に何個ものクッションをあてがわれそこに落ち着くと、上掛けの上に盆に載った食事を置かれた。

(なんだろう? おじや?)

 クリーム色のスープのようなものに米が入っているそれからは、とても美味しそうなチーズ香りが漂ってくる。

 初めて見る料理に首を傾げている美冬のベッドの隅に、鏡哉が腰を掛ける。
  
「リゾットだ。見たことないのか?」

「……ないです」

「味見はしたから不味くはないと思うが……もしかしてチーズが食べれないのか?」

 すこし心配そうにそう問いかけてきた鏡哉に、美冬はぶんぶんと首を振ると手を合わせ「いただきます」と銀色に輝くスプーンを取った。

「ん~~っ!?」

 リゾットを口に運んだとたん、美冬は大きな瞳をさらに大きく見開いて唸る。

「なんだ?」

「め、めちゃくちゃ美味しいです!」

 そう言ってあっという間に2杯も平らげてしまった美冬は、満腹
になって微笑んだ。

「御馳走様でした。幸せ~っ!」

 その微笑みがあまりに幸せそうで、鏡哉の鉄面皮の頬も少し緩んだ。

(うわあ、綺麗な人……って男の人なのに、きれいって変かな?)

 ぼうと鏡哉を見入っていた美冬は鏡哉の一言で我に返った。

「ところで、君は誰? なんであんなところで倒れたの?」
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