籠鳥~溺愛~
「……倒れた?」
ぽかんと聞き直した美冬はその時初めて自分の姿を確認した。
赤いコートは脱がされていたが、セーラー服を着たままだった。
(そうだ、私あの時――)
「す、すみません! 私、鈴木美冬って言います。あ、あの時、バイトに向かおうとして、あまりの空腹と眠さに――!」
「私の車のボンネットに突っ伏して寝てしまったのか」
あの時、頭がくらくらして視界が黒くなった時に何かにぶつかった気がしたが、どうやらこの男の車だったらしい。
「ほ、ほんとスミマセン!! く、車へこんでなかったですか?」
美冬はそう自分で言ってから真っ青になった。
この部屋はどう見ても一般の住居とは異なる。
美しくそしてセンス良く整えられた、見るからに高級そうと分かる家具たち。
目の前の男の様相からも多分高級車に乗っているだろう、その車にもし凹みでも付けてしまっていたら、幾ら弁償することになるのだろうか。
「大丈夫、車は何ともない」
必死な形相で聞いてきた美冬に鏡哉は頷いてみせると、美冬はほっとした表情で大きく息を吐いた。
「私は新堂鏡哉。しかし、君中学生だろう? バイトなんかして大丈夫なのか?」
そう訝しげに見てきた鏡哉に、美冬はすこしべそをかきそうな表情で言い返した。
「う……私、これでも高校一年生なんです……」
「高校生? 本当に? 悪い、小さいから間違えた。しかし高校生が倒れるまでバイトをするのは感心しないな」
小さいと言われ、美冬はまた少しへこんだ。
しかし、高校という言葉にひっかかり顔を上げる。
「あ! 学校っ! 今何時ですか?」
「8時30分」
「あ~~、また遅刻だ~~」
鏡哉はがっくりと項垂れた美冬の膝の上から盆を取り上げると、部屋を出て行った。
(っていうか、ここどこ――?)
我に返って部屋を見渡すが、窓から見える景色からはだいぶ高層のマンションであることくらいしかわからない。
美冬はベッドから勢いよく飛び出て窓辺に近寄ろうとしたが、床に足をついた途端、ぐらりとその場にしゃがみこんでしまった。
目が回る。貧血だろうとフカフカの絨毯の床に両手を付いて立ち上がろうとするが、うまくいかない。
「こら、無理をするな」
頭上からそう言葉が降ってきて、気が付くと暖かい腕に抱きあげられていた。
「まったく――こんなに痩せるまでバイトをさせる親って……」
少し呆れた様な言葉が頭の上で零される。
(違う――お父さんとお母さんは悪くない――)
丁寧にベッドに横にされた美冬は、遠のいていく意識の中、つぶやいた。
「……私、『ひとり』だから――」
ぽかんと聞き直した美冬はその時初めて自分の姿を確認した。
赤いコートは脱がされていたが、セーラー服を着たままだった。
(そうだ、私あの時――)
「す、すみません! 私、鈴木美冬って言います。あ、あの時、バイトに向かおうとして、あまりの空腹と眠さに――!」
「私の車のボンネットに突っ伏して寝てしまったのか」
あの時、頭がくらくらして視界が黒くなった時に何かにぶつかった気がしたが、どうやらこの男の車だったらしい。
「ほ、ほんとスミマセン!! く、車へこんでなかったですか?」
美冬はそう自分で言ってから真っ青になった。
この部屋はどう見ても一般の住居とは異なる。
美しくそしてセンス良く整えられた、見るからに高級そうと分かる家具たち。
目の前の男の様相からも多分高級車に乗っているだろう、その車にもし凹みでも付けてしまっていたら、幾ら弁償することになるのだろうか。
「大丈夫、車は何ともない」
必死な形相で聞いてきた美冬に鏡哉は頷いてみせると、美冬はほっとした表情で大きく息を吐いた。
「私は新堂鏡哉。しかし、君中学生だろう? バイトなんかして大丈夫なのか?」
そう訝しげに見てきた鏡哉に、美冬はすこしべそをかきそうな表情で言い返した。
「う……私、これでも高校一年生なんです……」
「高校生? 本当に? 悪い、小さいから間違えた。しかし高校生が倒れるまでバイトをするのは感心しないな」
小さいと言われ、美冬はまた少しへこんだ。
しかし、高校という言葉にひっかかり顔を上げる。
「あ! 学校っ! 今何時ですか?」
「8時30分」
「あ~~、また遅刻だ~~」
鏡哉はがっくりと項垂れた美冬の膝の上から盆を取り上げると、部屋を出て行った。
(っていうか、ここどこ――?)
我に返って部屋を見渡すが、窓から見える景色からはだいぶ高層のマンションであることくらいしかわからない。
美冬はベッドから勢いよく飛び出て窓辺に近寄ろうとしたが、床に足をついた途端、ぐらりとその場にしゃがみこんでしまった。
目が回る。貧血だろうとフカフカの絨毯の床に両手を付いて立ち上がろうとするが、うまくいかない。
「こら、無理をするな」
頭上からそう言葉が降ってきて、気が付くと暖かい腕に抱きあげられていた。
「まったく――こんなに痩せるまでバイトをさせる親って……」
少し呆れた様な言葉が頭の上で零される。
(違う――お父さんとお母さんは悪くない――)
丁寧にベッドに横にされた美冬は、遠のいていく意識の中、つぶやいた。
「……私、『ひとり』だから――」