籠鳥~溺愛~
「……ということは、そこに一人暮らし?」

 最早鏡哉は食事の手を止めて美冬の話に集中していた。

「はい」

「なんでバイトを?」

「親が高校を卒業できるくらいの蓄えを残してくれたんですけど、私、大学に行きたくて――」

「それで、バイトを?」

「はい。昨日は結局休んじゃいましたが、今日も18時からシフト入ってるんです。だから食べ終えたら帰りますね」

 何でもない事のように美冬はそう言って食事を続ける。

「バイトって何をやっているの?」

「ええと、18時からのはお弁当屋で、22時からのはレンタルビデオやさんです」

 美冬はそういうとちらりと壁にかかった時計を見上げる。

「ちょ、ちょっと待って! 22時からって、いったい何時まで働いてるんだ?」

「えっと……5時までですが。ふ~~、お腹いっぱいです。御馳走様でした、新堂さん!」

 きちんと手を合わせて合掌した美冬は席を立ちあがろうとして、案の定ふらりと眩暈に襲われて座り込む。

「馬鹿か、君はっ!!」

 気が付くと、鏡哉は大声を上げて立ち上がっていた。

 いきなり怒鳴られた美冬は訳が分からないといった感じで、鏡哉を見上げる。

「そんなになるまで働いて、寝る暇もなくて――大学に行きたいのに勉強をする暇もないじゃないか!!」

 鏡哉はそう言い募る自分が信じられなかった。

 他人に対して興味を抱かず、いつも一線を引いて相手と付き合っていた自分が、こんなにも他人に対して感情を揺さぶられている。

「……えっと、新堂さん?」

 美冬は睨みつけるように見つめてくる鏡哉に首を傾げて見せる。

「……すまない、怒鳴ったりして」

 ぽかんとした表情の美冬は小さくかぶりを振る。

(何しているんだ私は――彼女にとって自分はただの他人なのに)

 『他人』という言葉が予想以上に辛く感じる。

 すっと視線を逸らして座りなおした鏡哉に、目の前の美冬は微笑んだ。

「……優しいんですね、新堂さんは――」

「うざいか――?」

 純情そうな中学生に見えるが、美冬もれっきとした女子高生だ。
 
 他人の男にそんな風に怒鳴られて、きっとそう思っているに違いない。

「うざい? とんでもないです。ふふ、うれしくって――」

「嬉しい?」

「はい。私、周りの人に怒られたり注意されたりすると、嬉しくなって惚けちゃうんです。『ああ、この人、私のためを思って怒ってくれているんだなあ』って!」

 美冬はそういうとなおさら嬉しそうに微笑む。

 その笑顔につられて、鏡哉も頬のこわばりを解く。

「まったく……君は不思議な子だな」

「そうですか?」

「ああ」

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