真実の永眠
10話 変化
10月、秋。
時間の流れは、本当に早い。
もう少しゆっくり進んでくれないかと、無意味に願ってしまう事もある。
全身に触れながら、彷徨うように吹き抜ける風も、今は冷たくなって来ている。
流石に凍える程に寒くはないが、寒がりの私には、この風の冷たさが応える。
だけども、この季節は好きだ。
鮮やかな色彩を放つ、あの山の紅葉も。
儚く寂しく舞い落ちる枯れ葉も。
物憂い気分を誘い出す、切なく冷たい風も。
全部、好き。
凍える程身に沁みる風。
雪が舞い降りて、幻想的な世界に誘(いざな)われる、真っ白な景色。
光彩を放つ街並みから流れるクリスマスソングに、人々は少しばかり浮き足立って。
冬は、もっと好き。
今の季節とこれから訪れる季節に、心を躍らせながら家路を辿る。
9月の半ばから、私はケーキ屋でアルバイトを始めた。
今はバイトが終わって家に向かっている所だ。
今はもう大分慣れて来たが、始めたばかりの頃、それはもう大変だった。
初めてのバイト、環境も変わって、肉体的にも精神的にも最初は辛かった。入っていきなり辞めようかと思ったくらいだ。
だけども、自分も何か打ち込めるもの、頑張る何かが欲しくて――優人がバレーを頑張っているように、そしてそんな彼に少しでも近付けるように。
そんな目標を自分なりに掲げ、頑張り抜く事を決意した。
だからこんな事でへこたれる訳には行かない。
他にも、彼に近付けるように、可愛くなろうとも思った。いつか、彼の隣を、自信を持って歩けるように。
今の私にとって彼は、まだまだ手が届かない、空だったから。
化粧などの美容を研究してみたり、髪型にも気を遣ったり、ダイエットをしてみたり……
だけど、もしも奇跡が起きて最高の美を手にしたとしても、まだ、彼の隣は歩けない。歩く資格はない。
だって、あんなにも綺麗な心は、綺麗な心でしか見られない。優しくならなきゃ、彼と同じ、綺麗な心を持たなきゃ。
透き通るような青い空を時々見上げながら、気持ちのいい風を身体に感じながら歩いていた。
麻衣ちゃんが、彼・松田さんと別れてから1カ月程経つが、2人がヨリを戻す事は無かった。
彼女から何度か今の状況を聞いたりはしていたが……。
松田さんには、彼女が出来たらしかった。
それを聞いた時には流石に呆れたが、麻衣ちゃんには何も言わなかった。
――一度。
優人に松田さんの事をそれとなく聞いた事があった。
彼と別れてからの麻衣ちゃんは、忘れられないのか必死に彼を追い掛けていた。その姿が何だか見るに耐えなくて、彼女の為になるならと、優人を尋ねてみた。
――松田さん、麻衣ちゃんの事、優人に何か言ってなかった?
2人が仲良しなら、優人に何か言ってるかも知れないって、そう思ったのだが。
――何も聞いてないよ。何かあった?
早い、返信。優人は本当に何も知らないようだった。
2人の事を話してもいいのかどうなのか迷い、結局優人には何も言わず、本当にそれだけを聞いて、後は適当に話を続けてその日はメールを終えた。
部活が同じだからある程度は話すのだろうが――もしかしたら優人と松田さんは、そんなに仲がいいわけではないのかも知れない。
それに優人は、他人の恋愛には無関心なのかも……、同時に、悟るようにそう思った。
バイトが毎日のように入っている為、友達と遊ぶ時間が削られて来ていた。
特に麻衣ちゃん達が別れてからは、連絡こそ取るものの、あまり遊ぶ事がなくなった。彼女が遊ぶ気にはなれない事と、私のバイトが重なったからだ。
ただ、最近は理恵ちゃんと、メールのやり取りや、時間を見付けては遊びに行ったり、そんな機会が増えたように思う。
理恵ちゃんも私と同じく、彼女持ちの男の子に片想いをしているから、お互いに励まし合い共感し合い、とても良い関係になって来ていた。
そういえば、7月に開催された近所の祭に、今年は理恵ちゃんと一緒に行った。
彼女はとても聞き上手で、いつも真剣に相談を聞いてくれたし、彼女が紡ぎ出すアドバイスは、本当に為になるものだった。
勿論彼女からも相談を持ち掛けられた事もあり、上手く答えられたのかは別として、真剣にその相談を聞いた。
時間はどんどん流れて行く。時に人の感情などお構い無しに、置き去りにしてでも進んで止まる事を知らない。
季節が変わった事を抜きにしても、周りはどんどんその姿形を変えて行く。
良い方向へ? 或いは悪い方向へ。
ただ、その中で確実に変わらないものもあった。
優人への、想い。
時間の流れと共に募るその想いは、以前に比べ変わってしまったと言えばそうなのだろうが、優人への恋心が消える事はなかった。
出会った頃よりももっともっと好きになっている。
――この想いが報われる日はあるんだろうか。
そう想い、何度泣きたくなっただろう。泣くのを我慢して来ただろう。
まだ、終わらない。
彼への気持ちを、終わらせる事なんて出来ないから――だから。
変わる事のないこの気持ちを、ずっと持っていよう、純粋に好きで居続けよう。
帰り道、静かに決意をした。
時間の流れは、本当に早い。
もう少しゆっくり進んでくれないかと、無意味に願ってしまう事もある。
全身に触れながら、彷徨うように吹き抜ける風も、今は冷たくなって来ている。
流石に凍える程に寒くはないが、寒がりの私には、この風の冷たさが応える。
だけども、この季節は好きだ。
鮮やかな色彩を放つ、あの山の紅葉も。
儚く寂しく舞い落ちる枯れ葉も。
物憂い気分を誘い出す、切なく冷たい風も。
全部、好き。
凍える程身に沁みる風。
雪が舞い降りて、幻想的な世界に誘(いざな)われる、真っ白な景色。
光彩を放つ街並みから流れるクリスマスソングに、人々は少しばかり浮き足立って。
冬は、もっと好き。
今の季節とこれから訪れる季節に、心を躍らせながら家路を辿る。
9月の半ばから、私はケーキ屋でアルバイトを始めた。
今はバイトが終わって家に向かっている所だ。
今はもう大分慣れて来たが、始めたばかりの頃、それはもう大変だった。
初めてのバイト、環境も変わって、肉体的にも精神的にも最初は辛かった。入っていきなり辞めようかと思ったくらいだ。
だけども、自分も何か打ち込めるもの、頑張る何かが欲しくて――優人がバレーを頑張っているように、そしてそんな彼に少しでも近付けるように。
そんな目標を自分なりに掲げ、頑張り抜く事を決意した。
だからこんな事でへこたれる訳には行かない。
他にも、彼に近付けるように、可愛くなろうとも思った。いつか、彼の隣を、自信を持って歩けるように。
今の私にとって彼は、まだまだ手が届かない、空だったから。
化粧などの美容を研究してみたり、髪型にも気を遣ったり、ダイエットをしてみたり……
だけど、もしも奇跡が起きて最高の美を手にしたとしても、まだ、彼の隣は歩けない。歩く資格はない。
だって、あんなにも綺麗な心は、綺麗な心でしか見られない。優しくならなきゃ、彼と同じ、綺麗な心を持たなきゃ。
透き通るような青い空を時々見上げながら、気持ちのいい風を身体に感じながら歩いていた。
麻衣ちゃんが、彼・松田さんと別れてから1カ月程経つが、2人がヨリを戻す事は無かった。
彼女から何度か今の状況を聞いたりはしていたが……。
松田さんには、彼女が出来たらしかった。
それを聞いた時には流石に呆れたが、麻衣ちゃんには何も言わなかった。
――一度。
優人に松田さんの事をそれとなく聞いた事があった。
彼と別れてからの麻衣ちゃんは、忘れられないのか必死に彼を追い掛けていた。その姿が何だか見るに耐えなくて、彼女の為になるならと、優人を尋ねてみた。
――松田さん、麻衣ちゃんの事、優人に何か言ってなかった?
2人が仲良しなら、優人に何か言ってるかも知れないって、そう思ったのだが。
――何も聞いてないよ。何かあった?
早い、返信。優人は本当に何も知らないようだった。
2人の事を話してもいいのかどうなのか迷い、結局優人には何も言わず、本当にそれだけを聞いて、後は適当に話を続けてその日はメールを終えた。
部活が同じだからある程度は話すのだろうが――もしかしたら優人と松田さんは、そんなに仲がいいわけではないのかも知れない。
それに優人は、他人の恋愛には無関心なのかも……、同時に、悟るようにそう思った。
バイトが毎日のように入っている為、友達と遊ぶ時間が削られて来ていた。
特に麻衣ちゃん達が別れてからは、連絡こそ取るものの、あまり遊ぶ事がなくなった。彼女が遊ぶ気にはなれない事と、私のバイトが重なったからだ。
ただ、最近は理恵ちゃんと、メールのやり取りや、時間を見付けては遊びに行ったり、そんな機会が増えたように思う。
理恵ちゃんも私と同じく、彼女持ちの男の子に片想いをしているから、お互いに励まし合い共感し合い、とても良い関係になって来ていた。
そういえば、7月に開催された近所の祭に、今年は理恵ちゃんと一緒に行った。
彼女はとても聞き上手で、いつも真剣に相談を聞いてくれたし、彼女が紡ぎ出すアドバイスは、本当に為になるものだった。
勿論彼女からも相談を持ち掛けられた事もあり、上手く答えられたのかは別として、真剣にその相談を聞いた。
時間はどんどん流れて行く。時に人の感情などお構い無しに、置き去りにしてでも進んで止まる事を知らない。
季節が変わった事を抜きにしても、周りはどんどんその姿形を変えて行く。
良い方向へ? 或いは悪い方向へ。
ただ、その中で確実に変わらないものもあった。
優人への、想い。
時間の流れと共に募るその想いは、以前に比べ変わってしまったと言えばそうなのだろうが、優人への恋心が消える事はなかった。
出会った頃よりももっともっと好きになっている。
――この想いが報われる日はあるんだろうか。
そう想い、何度泣きたくなっただろう。泣くのを我慢して来ただろう。
まだ、終わらない。
彼への気持ちを、終わらせる事なんて出来ないから――だから。
変わる事のないこの気持ちを、ずっと持っていよう、純粋に好きで居続けよう。
帰り道、静かに決意をした。