真実の永眠
56話 永眠
美しい情景が描かれた絵画のように。
写真に閉じ込められた、咲き誇る花々の凛々しい姿のように。
見えているものは、一瞬で、永遠である。
美しい その姿のみ。
*
春。
桜の木も、もうその殆どが葉桜に姿を変えた頃、一通の手紙が届いた。差出人は、なぎさだった。
封も便箋も、なぎさそのものを表しているかのような可愛らしいもので。淡いピンク色、今の季節にピッタリのそれ。
封を開け便箋を取り出すと、それは三枚あった。綺麗に整った字がそこには並ぶ。書いてある内容は、優人の事だった。
***
Dear 雪ちゃん
こんにちは。久しぶりにお手紙を書きます。
今日はまず、雪ちゃんの恋について、言いたい事があります。
私はね、雪ちゃんがあの恋でどれだけ頑張ってたのかを、百%ではないけれど知ってるよ。雪ちゃんがどれだけ彼のことを想ってたか、電話やメールや手紙から感じとることができた。
いつだって雪ちゃんは百%全力だった。全力で恋してた。私にはそう見えた。
それは無駄なことじゃない。あの恋は雪ちゃんに大きな爪痕を残したかもしれない。
でも、あの恋は無駄じゃない。叶わなかった恋でも無駄じゃない。
本気で彼のことを想う雪ちゃんは可愛かった。本気で彼のことで泣く雪ちゃんはとっても愛しかった。本気で頑張ってた雪ちゃんはとっても輝いてた。
本気で頑張ったあの恋があったからこそ、今の雪ちゃんがあるんじゃないかな?
雪ちゃん、辛くなっても、あの恋を“無駄な恋”にしないでね。あの恋は絶対に雪ちゃんを素敵な人にさせてくれたと思う。今はまだ、思い出すと辛くて悲しいかもしれない。でもきっといつか、あの恋を愛しく想える日がくるよ。誇りに思える日がくる。あの恋は、ずっと雪ちゃんを見守ってくれてるよ。
今はゆっくり休んでね。
辛くなったら、心に余裕がなくなったら、私に何でも言って。聞くぐらいしか出来ないかもしれないけど、少しでも楽になれるなら、私は雪ちゃんの話を聞きたい。
大丈夫、雪ちゃんは一人じゃない。
私はね、彼が雪ちゃんに対して恋愛感情を持っていたのかまではわからない。
でもね、きっと彼、雪ちゃんの事大切に想ってた。可愛く想ってた。一生懸命に自分のことを想ってくれている雪ちゃんの事、愛しく想ってた。
私は、そう想うよ。
何か偉そうにごめんね。
今度会う時は、二人笑顔でお話できるといいね。夏には会おう!
長くなったけどこの辺で。
From なぎさ
***
涙がぽろぽろと、静かに頬を伝う。
私は一体どれだけの人に支えられて、愛されて、生きてきたのだろう。
私は生かされて、ここにいる。生きている。
便箋を封に戻し、手紙を抱き締め座り込んだ。
優人を想って涙するのは、今日で最後にしよう。
*
四年前の、ちょうど今頃、私は優人に出会った。
そんなあなたに、私は恋をしました。
壊れるくらいに人を、あなたを、好きになりました。
だけどそれは、煌くも悲恋で。
遠かった、あなた。
結局最後まで、そこに触れる事は叶わなかった。
喩えるならば、空でした。
最初から最後まで、あなたは。
空のような、人でした。
手を伸ばしても、触れられなかった。
だけどそれは、切なくも美しく。
あなたを好きになって、私は全ての季節をあなたで埋められた。
そしてその四季は、愚かなくらい四度も、通り過ぎた。
あなたへの恋慕を胸に、葉桜を四度も。
だけどそれは、
だけど、それは。
永遠の眠りについた真実は、
「愛した姿よ、想いよ、涙よ、恋慕よ。
穢れる事なく美しいまま、
古となれ」
沈黙の中で、きっとそう願った。
だから私は、
美しい情景が描かれた絵画のように。
写真に閉じ込められた、咲き誇る花々の凛々しい姿のように。
一瞬である永遠を、思い出に閉じ込めた。
それは生き続ける、静止画。
美しい その姿のみ。
私の恋は、いつの日かなぎさが歌ったあの悲しい恋歌のように。
美しく、散った。
ありがとう って、
美しく、幕を閉じた。
だけどそれは、切なくも気高く。
だからこそ
願った。
美しいままの
古であれ――……、
と。
優人、あなたを
忘れない。
ありがとう。
さようなら。
ただ、
許されるのであれば、
優人を
一発
殴りたい。
-Fin-
写真に閉じ込められた、咲き誇る花々の凛々しい姿のように。
見えているものは、一瞬で、永遠である。
美しい その姿のみ。
*
春。
桜の木も、もうその殆どが葉桜に姿を変えた頃、一通の手紙が届いた。差出人は、なぎさだった。
封も便箋も、なぎさそのものを表しているかのような可愛らしいもので。淡いピンク色、今の季節にピッタリのそれ。
封を開け便箋を取り出すと、それは三枚あった。綺麗に整った字がそこには並ぶ。書いてある内容は、優人の事だった。
***
Dear 雪ちゃん
こんにちは。久しぶりにお手紙を書きます。
今日はまず、雪ちゃんの恋について、言いたい事があります。
私はね、雪ちゃんがあの恋でどれだけ頑張ってたのかを、百%ではないけれど知ってるよ。雪ちゃんがどれだけ彼のことを想ってたか、電話やメールや手紙から感じとることができた。
いつだって雪ちゃんは百%全力だった。全力で恋してた。私にはそう見えた。
それは無駄なことじゃない。あの恋は雪ちゃんに大きな爪痕を残したかもしれない。
でも、あの恋は無駄じゃない。叶わなかった恋でも無駄じゃない。
本気で彼のことを想う雪ちゃんは可愛かった。本気で彼のことで泣く雪ちゃんはとっても愛しかった。本気で頑張ってた雪ちゃんはとっても輝いてた。
本気で頑張ったあの恋があったからこそ、今の雪ちゃんがあるんじゃないかな?
雪ちゃん、辛くなっても、あの恋を“無駄な恋”にしないでね。あの恋は絶対に雪ちゃんを素敵な人にさせてくれたと思う。今はまだ、思い出すと辛くて悲しいかもしれない。でもきっといつか、あの恋を愛しく想える日がくるよ。誇りに思える日がくる。あの恋は、ずっと雪ちゃんを見守ってくれてるよ。
今はゆっくり休んでね。
辛くなったら、心に余裕がなくなったら、私に何でも言って。聞くぐらいしか出来ないかもしれないけど、少しでも楽になれるなら、私は雪ちゃんの話を聞きたい。
大丈夫、雪ちゃんは一人じゃない。
私はね、彼が雪ちゃんに対して恋愛感情を持っていたのかまではわからない。
でもね、きっと彼、雪ちゃんの事大切に想ってた。可愛く想ってた。一生懸命に自分のことを想ってくれている雪ちゃんの事、愛しく想ってた。
私は、そう想うよ。
何か偉そうにごめんね。
今度会う時は、二人笑顔でお話できるといいね。夏には会おう!
長くなったけどこの辺で。
From なぎさ
***
涙がぽろぽろと、静かに頬を伝う。
私は一体どれだけの人に支えられて、愛されて、生きてきたのだろう。
私は生かされて、ここにいる。生きている。
便箋を封に戻し、手紙を抱き締め座り込んだ。
優人を想って涙するのは、今日で最後にしよう。
*
四年前の、ちょうど今頃、私は優人に出会った。
そんなあなたに、私は恋をしました。
壊れるくらいに人を、あなたを、好きになりました。
だけどそれは、煌くも悲恋で。
遠かった、あなた。
結局最後まで、そこに触れる事は叶わなかった。
喩えるならば、空でした。
最初から最後まで、あなたは。
空のような、人でした。
手を伸ばしても、触れられなかった。
だけどそれは、切なくも美しく。
あなたを好きになって、私は全ての季節をあなたで埋められた。
そしてその四季は、愚かなくらい四度も、通り過ぎた。
あなたへの恋慕を胸に、葉桜を四度も。
だけどそれは、
だけど、それは。
永遠の眠りについた真実は、
「愛した姿よ、想いよ、涙よ、恋慕よ。
穢れる事なく美しいまま、
古となれ」
沈黙の中で、きっとそう願った。
だから私は、
美しい情景が描かれた絵画のように。
写真に閉じ込められた、咲き誇る花々の凛々しい姿のように。
一瞬である永遠を、思い出に閉じ込めた。
それは生き続ける、静止画。
美しい その姿のみ。
私の恋は、いつの日かなぎさが歌ったあの悲しい恋歌のように。
美しく、散った。
ありがとう って、
美しく、幕を閉じた。
だけどそれは、切なくも気高く。
だからこそ
願った。
美しいままの
古であれ――……、
と。
優人、あなたを
忘れない。
ありがとう。
さようなら。
ただ、
許されるのであれば、
優人を
一発
殴りたい。
-Fin-