真実の永眠
突然鳴り響いた着信音に、私は目を醒ました。
この着信音。――優人だ。
優人から届いた時のみ流れる着信音。メールを始めてすぐに、優人だけの着信音を設定していた。すぐに分かるように。
大好きな、あの曲を設定した。
<部活終わったよ。今は駅で汽車待ってる>
優人からの返信には、そう書かれていた。返信があるだけで、本当に幸せだった。
カチカチと静かに時を数える時計は、十八時二十五分を指していた。部活が終わるのは十八時だから、部活を終えて、着替えなどを済まし、すぐに返信してくれたのだろう。嬉しかった。
幸せな気持ちが溢れてくる。幸せに胸がきゅっと締め付けられる感覚を憶えながら、また次のメールを送信した。
<お疲れ様。汽車通学は待ち時間とかあるから大変だね>
私ならすぐに帰りたがるんだろうなぁなんて思いながら、優人からの返信を待った。
優人は基本的にメールの返事が早く、故に、自分も早く返せば、それなりに多くやり取りが出来る訳で。
<ありがとう。うん、今はもう慣れたけど>
一文ごとに一つ二つ付けられた絵文字が、凄く嬉しかった。
優人は無事家に到着したようだ。
汽車の待ち時間は長いようだけれど、乗りさえすれば五分程で最寄の駅へ、そこから十分程歩くと自宅に着くのだと言っていた。
<家に着いたよ。ただいま>
ただいま……。
なんて心躍る響きなんだろう。幸せの余りキュッと締め付けられる胸を押さえた。幸せ過ぎて苦しかった。
<おかえり。汽車に乗ったら家に着くのは早いんだね>
<うん、割りとすぐだよ>
<そうなんだ>
そろそろ、この話題も終わる。話を切り替えるタイミングは、今しかない。
今日メールをした本来の目的を、私は考えていた。
――お祭り。
思い出したら急に緊張してきた。
どうしようか……誘うだけ無駄な気もする。告白もしないで好きです発言しているようなものだし、彼女がいるから百%断られるだろう。
どちらの返事を貰っても、複雑な心境になり、必ずショックを受ける。言わない方が、いい。
高鳴る鼓動を抑え込む。
別に誘わなくても、祭の話題やそれとなく聞くだけなら構わないだろうか。けれど何だか話題を出すだけで、一緒に行きたいと言っているように聞こえそうだ。
告白はしていなくても、メールをしたいと聞かされた時点で、相手は自分に好意を持っている事は簡単に予想出来るから。
優人からまた返事が届く。
<うん。でもやっぱり汽車通学はだるいかな>
<そうだよね。時間に合わせなきゃいけないから朝も早いしね>そこまでを打って送信しようと思ったが、手を止めた。
聞くだけなら、構わないだろうか。
優人には申し訳ないが、私の意識は殆ど通学の話に向いてはいなかった。ただ、頭の中を支配するのは、麻衣ちゃんからの言葉だけだ。
<ところで、優人が住んでる地域はお祭りとかあるの?>
先程打っていた文にそう付け加えて、送信ボタンを押した。
何だかそれとなく話題に出す方が一緒に行きたい気持ちが伝わるような気がしたけれど、実際に誘っている訳ではないから、そこまで気にしなくても大丈夫かな。
また“優人”を知らせる着信音が鳴り響いた。
本当に返事が早い。
<俺の住んでるとこは何もないとこだから、あったとしても小さい祭くらいかなぁ。市内ならあるけど>
「……」
拍子抜けする程に、普通の内容。何だか優人らしくて思わず笑みが零れた。
今は。
今は、あまり意識する事なく普通に接するのが、一番いいのかも知れない。
優人とのメールはいつもそうだ。
緊張しながら何かを送ったとしても、優人本人はあまり気にしていないのだろう。だからいつも普通にメールを返して来る。鈍感なのか敢えて知らないフリをしているのか、どちらなのか定かではないが、今は、こんな二人がいいのだと思う。
そう思うと何だかさっきまでの緊張が和らいだ。
だけど、だけど。
私はそんな優人が好きだから、ほんの少しだけ好きの気持ちを込めて、メールを作成した。
<そうなんだ。優人と行けたらいいな>
バレるならバレたって構わない。もう既に好意を持っている事は知っているだろうから。好きでいる事も、優人は気付いているだろう。
流石にこのメールを送信するのは少しばかり緊張したが、私はそう開き直る事にした。
返事は、遅くも早くもなく。
普段と変わらない間隔で、私の携帯電話は優人からのメールを受信した。
<今は、ちょっと無理だけど>
やっぱり……、か。
ドキドキしていた鼓動と落胆の色は、まだ、納まりそうにない。
けれども、今――“は”?
希望はまだ失われていないように感じて、今はまだこれでいいんだと、言い聞かせる事にした。
返事をどうしようかと少し悩んだが、落ち込んでいると悟られるメールは相手にも悪いし、変に申し訳無さを感じて欲しくもなかったので。さして気にもしていないような、普通の会話を続ける事にした。
*
今年は、ここらの地域で開催される祭には、全て約束があり、友人と一緒に出掛けた。
私の住んでる地域の祭は、どれも最後に花火が上がる。
友人との談笑や、屋台を回る事も楽しかったけれど、やはり最後の花火が一番好きだった。
この瞬間の夏は好き。
「わぁ……」
空に咲く、大きな花。
「綺麗だね」
「うん」
「来年は、お互いに彼氏と来たいね」
「そうだね」
そんな会話をしながら、私と同じく彼のいない友人と、花火を静かに見つめていた。
八月の祭りは、秋が近付く事も相俟って、最後の花火はとても切ないものになる。少なくとも私には、そう感じられていた。
夏が終わる。そして何だか切なさを感じる秋が来る。
あなたを好きになって、私は全ての季節をあなたで埋められるのだろうか。
そしてその四季は、一体何度通り過ぎるだろう。
大きな音を立てて、空に咲く大きな花。暗闇を照らしてくれる。
花火も終盤に差し掛かる。最後はバンバンバンッと連続で打ち上げられた。あまりの迫力に圧倒されながらも、その美しさにずっと魅せられていた。
あなたを好きになって、私は全ての季節をあなたで埋められるのだろうか。
そしてその四季は、一体何度通り過ぎるだろう。
一体何度、通り過ぎただろう。