餞の言葉
教室に戻り、卒業証書を片手に別れを惜しむあたしたち。
じきに先生がやってきて、軽く黒板を叩いた。
「ほら、席につけ。最後の挨拶だぞ」
「はーい」
あたしたちはブツブツ言いながらも素直に言う事を聞く。
いつもそうだった。
時間や行動には厳しいけど、冗談が通じて優しくて。
色々文句を言ったこともあったけど、皆坂上先生の事が好きだった。
先生は、一度コホンと咳払いをすると、あたしたちの顔をじっくり見回す。
自然に皆が静かになる。
真面目な顔が、ゆっくりと柔らかく緩む。
ああ、先生の笑顔。
あたしの好きだった先生の顔。
「卒業だな」
一言。
染みいるように、たっぷりとした余韻で紡がれた声に、早くも涙腺が刺激される。