餞の言葉


あたしはずかずかと入り込み、先生の机までも追い越して窓際まで行く。

先生のパソコンには文字が一杯。
なんの書類を作っているんだろう。


「どうしたんだ?」


顔もあげずに、メガネを直しながら言う。

そのメガネをとって。

まっすぐにあたしを見て。

先生、あたしを、あたしだけを見て。


「坂上センセ」

「なんだ?」

「こっち見て」


ようやくキーボードを打つ手が止まる。

先生はマウスを一度動かした後、視線をあげてあたしを見た。

先生はどうしてメガネをかけているんだろう。
それが無かったら、あたしと先生の間にはなんの壁もないのに。

レンズを一枚通してるだけで、なんでこんなに遠くに感じてしまうのか。
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