餞の言葉
先生は一つ大きな溜息をつくと、メガネをはずして立ち上がった。
さっきまで同じか少し下を見てれば良かったのに、今度は見上げなければ先生を見れない。
一歩にじり寄られる度に、あたしは何でか一歩下がる。
でもすぐ窓枠にぶつかって逃げ場は無くなった。
言うべき言葉を探すけど、こんな時には何も思いつかない。
どうして、怖いと思ってしまうのだろう。
あたしは先生が好きなんだから、嬉しいはずなのに。
やがて顔が近付いてくる。
じりじりと窓際に寄せられて、顔を近づけられる。
先生の息が頬にかかった時、我慢しきれなくなって目をギュッとつぶった。
けれど、先生の唇は触れられることはなかった。
離れていく気配と共に、彼の口から笑いが漏れる。