金平糖*days
「どうしようかなぁ、迷うなあ~っ!」
 お風呂上がり、ベッドの上でごろごろしながら。
 私は床に散らばった雑誌のひとつをつまみ上げ、グラビアをぱらぱらとめくった。もう、ここんとこはこればっか。昼間、空気の入れ換えに部屋に入った母親に「学生の本分は何だっけ?」と渋い顔をされるのもしばしばよ。でもねえ、そんなこといってもねー、仕方ないじゃないの。
 うーん、やっぱ「生チョコ」はいいなあ。苦いココアパウダーに包まれたとろんとした食感を思い出すだけでぞくぞくする。それに結構簡単に出来るのよね、そこも狙い目。うんうん、ここの頁は要チェックね。ああ、だけど焼き菓子も捨てがたい。しっとり濃厚なガトーショコラにシフォンケーキ。ナッツたっぷりのチョコブラウニーとかもいいなあ。ああ、悩む悩む。
 うわあ、プレゼントのラッピングも可愛いなあ。だけどさーこんなピンクのひらひら、男子たちはどう思うんだろう。どう考えても趣味じゃないと思うんだけどな。それでも綺麗に飾ってあった方が嬉しいのかしら。良く分かんないわ。
 ぱらんとまた一枚めくると、今度は何故か「おしゃれ情報」。バレンタイン当日はこんなコーディネイトでばっちりとか書いてある。髪型からメイクまで事細かに説明してあって、モデルの女の子の表情も「やる気満々」って感じだ。そんなこと言ったって、今年は平日なんだけど。一度家に戻って着替えてから出直すのかしら? それもすごいなあ。
 ごろごろ、ごろごろ、ごろごろ。
「ああっ、困った~! どうしようーっ!」
 ひとりごとばっかり言ってるのも怪しい人みたいだから、とりあえずベッドの一角を占領しているクマさんに話しかけてみる。大きくて真っ白なクマさん。これは臣くんがくれた合格祝いだ。
  通学路の雑貨屋さんにずっとディスプレイで飾られていたこの子がずっと気になっていて、でも誰にも言い出せるはずもなくひとりで悶々としていたのね。そしたら合格発表の当日、帰宅した私を待っていたのは玄関で出迎えるクマさん本人。最初は何事かと思ったけど、母親の話を聞いて納得。臣くん、今までの貯金を全部はたいて連れてきてくれたんだって。
「そっかーお前がウチに来て、もう一年近くなのね」
 思わず、きゅーっと抱きしめてみたくなって、でもやめた。だって、こんなにチョコの記事ばっかり読んでたら、何だか身体中がチョコレート臭くなった気がするんだもの。だから我慢して、黒い鼻先にキスしてみる。クマさんはいつものつぶらな瞳のまま、じーっと私を見つめていた。
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