金平糖*days
「おはよう、くるみ」
 どんよりとした冬空。夜のうちに降った雨がアスファルトを黒く濡らしている。雪になるかも知れないって予報では言ってたけど、そうじゃなかったんだね。雪はそりゃ最高にロマンチックなんだけど、あとの大変さを考えるとあまり嬉しくない。
 長いマフラーをぐるぐると首に巻きながら家を出ると、臣くんはもう電信柱のところで待っていた。あんまり遅いときは玄関まで呼び鈴を押しに来るんだけど、今日はどうにか間に合った。手にしているのは何かの問題集かなあ、私の視線に気付いてぱたんと閉じる。
「おはよう、臣くん。今日も寒いね」
 白い息を辺りにまき散らしながら駆け寄ると、臣くんはちょっと小首を傾げて言った。
「……手袋、忘れないで持ってきた?」
 毎朝、慌てて家を飛び出してくる私がしょっちゅう色々と忘れ物をすることを、臣くんはとっくに承知している。ちなみに襟元はマフラーで完全防備してるのに手袋を忘れたことが、この冬だけで三回もある。徒歩とバスをあわせて30分ほどの通学路。結構冷えるのよね。
  じゃあ行こうかって、連れだって歩き出す。本当にもう、気の遠くなるほど昔からずっと私たちの朝はこんな風に始まっていた。幼稚園の時は園バスだったけど、それも一緒に乗ってたし。小学校と中学校は敷地が並んでて、ふたりが離れた1年間だっていつも通りで良かった。臣くんが先に高校生になった1年は、朝練のある私に合わせて家を出てくれて、校門まで送り届けてからバスに乗り込んでたのよね。
「すごい、過保護だよねえ。だけど、今庄先輩なら許せるかな。だって、隣にいたら目の保養になるでしょ? 朝から眼福よ」
 そんな風に言ったのは、和沙(かずさ)ちゃん。中学から一緒の友達だ。うんうん、分かるよその気持ち。確かにそうなんだよねえ……。
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