時計兎
橘 彩夏(タチバナ サナ)
『今年もダメだ彩夏。悪い』
両親からの冷たい一報だった。

信じられない!
お父さんもお母さんも大嫌い!!

胸中でそう強く叫ぶとしばらくの間、視界が滲んだ。
実際に叫んだわけではない。それに両親がその場にいたわけじゃない。

誰も側にいてくれない

それが苦しかっただけ。

切なさで心がしおれる。

それはまるで流れる濁流の涙の底にいるようだ。
結論の出ない思考の泥沼をひたすらに這いずり回された。

寂しさが血液に混じり、指先にまで染み渡る。

彼女はベッドに飛び込み、顔を枕に埋め、それを濡らした。
切れ切れに啜り泣く少女のその姿は夏の太陽のような普段のそれと違う。

悲しさと孤独を綯い交ぜにした感情をすくい、それが溢れるように表れてしまった、そんな様子であった。
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