時計兎
手が届く距離まで近づいてきた。

ここまで近づくとさらにわかる事があった。
少女には特に外傷はなく、血にまみれてもいない。

久遠は血を見なかったことに安堵した。


しかし寒いはずなのに緊張のためか、嫌な汗がなめくじのように背中を這っていく。



自分の鼓動が大きく聞こえる。
恐怖で震えるその手を制した。


よし


彼は腹を決め、少女の肩を叩き、声をかけようとした。


その瞬間、倒れていた少女が上半身だけ、すっくと起き上がった。


少女は目を擦り、億劫そうに辺りを見渡す。

彼の足を見つけ、顔が上へ動く。

視線が重なった。

彼は固まる。
少女は目を細め、眉をひそめる。


少しの沈黙の後


少女はまた倒れた。
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