時計兎
アパート
警官はまいたようだが、油断はできない。
もし、顔を見られて誘拐犯疑惑をかけられては面倒。

それだけは避けたい。

緊張が胃液と混じり、腹を重くする。臆病な久遠は物影から出ることができなくなっていた。

――そういえば彩夏は?

自問自答し、辺りを探す。
見当たらない、息が跳ねる。

――どこだっ?

彩夏はそんな久遠の様子を見ていたのか闇の中から出てきた。冷笑し、獲物はすでに籠の中、とでも言いたげだった。

「悠君の家に泊めてよ…」
猫撫で声、勝利を確信したような笑みを浮かべ、ささやく。
さきほどのような、哀願する様子は全くない。

「ダメです。家に帰します」
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