時計兎
――コホンッ

右手を口元に添え、彩夏の喉が震える。
大声コンテストの審査のように声を出す準備をしているようだ。
そして息を深く吸い込み、両手を筒代わりにする。

作戦開始。

「おまわりさ〜ん!!!」

山彦みたいに余韻を残す甲高い声
その声は地球を一周し、後ろからまた聞こえてくるのではないかと思うほど大きかった。


その声に応えるように遠くで聞き覚えのある奇声が聞こえた。


月光で青白い久遠の顔はさらに青さを増す。
せっかくまいたというのに警官は確実に近づいてくる。

一方、向日葵が日光をたっぷり浴びたような優しい笑顔を彩夏は振り撒いている。

――早く家に入れろ

その笑顔の裏にはそんな意味があるように感じた。

だがそれに怯んではいけない。

「ご両親も心配しているだろうし早く帰ろう?彩夏」

完全無欠の笑顔が少し曇ったように見えたのは気のせいだろう。

自転車の奇声が近い。

また喉が震える。
「たすけ――…」

このままでは本当に警官に見つかる。

彩夏のうるさい小さな口をふさぎ込み、誘拐犯のように抱き上げ、部屋にかけこんだ。
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