時計兎
時計兎
翌日

「ママ!!」

屋敷に到着すると彩夏の母親が門の前に立っていた。

「彩夏!!」

母親が枯れたはずの涙をさらに流し、彩夏に駆け寄る。

顔は涙で荒れ、目の下にはクマができていた。

母親が彩夏を抱きしめるとバカな娘ねぇ…と頭を撫でながら涙声で何度も言った。

――邪魔かな

久遠は気持ちを汲み取り、その場を後にしようと踵を返した。

「待って!」

彩夏の叫ぶ声。

「これあげる。昔作ったんだ」

何かを涙に染めた笑顔と共に差し出した。

それは兎だった。それも時計を持った兎。

「あとね……八月の花火大会に一緒に行こうねっ!」
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