時計兎
十四センチ

一番長いものだった。

それを手に持ち、ゆっくりと壁を支えに立ち上がる。その顔には笑顔が張り付いていた。人の人生なんてこんなものだという自嘲する笑み。うつむきながら一滴だけ床を濡らす。

一秒一秒がとても愛おしく思える。
いまさらになって後悔した。どんなに時間を無駄にしていたのかを思い知らされる。今なら死を理解できる気がした。そして死にたくないと思える。誰かが自分のせいで大泣きすると予測できたから。きっと助けを呼ぶ声より素晴らしく大きな泣き声だろうな。声をたてずに口元を緩めると少し心に余裕ができた。

一つだけ心残りが解消されるなら自分の物語の最後に精一杯の笑顔で受け止めてやりたい。


柄を壁に押し付け全力で右側頭部をぶつけた。
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