さよなら、いつか。①―幕末新選組伝―
なんとか攻撃の体制に、と思って剣を振り上げる。




「俺の勝ち。」





原田さんは口角だけを上げて笑った。





原田さんに握られた竹刀は、私の脇腹のところで寸止めされていた。





「原田左之助の勝利!」






へなっとその場に膝を折ってしまう。




これが本物の刀だったら。




私がうつむいていると原田さんが私の視線の高さに合わせてしゃがみこんできた。





「なかなか手ごたえあったぞ?」


優しく声を掛けられても今は耳に入らない。


原田さんの嘘つき。


手ごたえあったなんて嘘に決まっている。


手合せ中にあんな余裕そうな笑みを浮かべていたことが悔しい。


「私…いつか原田さん倒しますからっ!」


「おう。いつでも待ってるぜ?」


この時代で新しい目標ができた。



きっと同時に、現代に帰れない理由も一つ増えた。






――この時はまだ気づいていなかった。


この日の私が抱いた答えが、この後どんな悲しい結果を招くかなんて。


< 169 / 308 >

この作品をシェア

pagetop