さよなら、いつか。①―幕末新選組伝―
選択
現代と、過去
「うーん・・・。」
しゃもじを片手に、また考え込んでしまう。
理由は、あの電話。
色々考え込んでいたら、昨日はほとんど寝付けなかった。
あの声の男の子。
翼が篠原って呼んでいた、彼。
“お前ぐじぐじした女だね。”
その言葉が頭の中でリピートされる。
確かに、そうだよね。
あんな曖昧な返事、怒られてもしょうがない。
「どうしたの?」
「沖田さん・・・」
はっと我に返る。
それと同時に、今配膳中だったということを思い出す。
「ご、ごめんなさい。」
「具合悪いようだったら休んでてもいいよ?」
そう言って沖田さんは、私のおでこに自分の手を当てる。
触れられた部分が熱い。
こんな時でも心拍数は増えるばかりだから、人間の作りは分からない。
「熱はないみたいだね。」
優しく微笑んでくれる沖田さんの笑顔が、切ない。
いつもなら嬉しいはずなのに。
もし現代に帰ったら、この笑顔を向けられることはもうないのかしら?
ううん、二度と会うことさえ出来なくなる。
そう思うとこの瞬間が。
一分一秒が、とてつもなく尊く感じる。