Vrai Amour ~咲子の場合~
6.還る場所
目が覚めたとき、冷たくなった指先を誰かが優しく握っていてくれた。



秋緒・・・?


そう声に出そうとして気がついた。


その手は秋緒よりも大きく、少しカサついている。

秋緒の手はしっとりしてほんの少し冷たかった。




「さっちゃん・・・」



何十年かぶりに聞いた名前。


あの頃よりも大人になった声で呼ばれるその名前。



「・・・駿・・・」



思わず私も声に出してしまった。

もう何年も心の中で叫び続けた名前を・・・


はっと顔をあげた朝比奈は今にも涙がこぼれそうなほど潤んでいて

それほど心配させてしまったことに胸が痛くなった。
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