漆黒の黒般若
言いたいことを言い終わると楠葉は斎藤の表情を伺う

驚いているような様子でその場に固まっている

あまりにもきょとんとしているのであたしも言い過ぎたと反省した


「あの、斎藤さん…?」


「俺がいなくて寂しかったのか?それならそうだと口で言わなくてはわからないだろう?」



「へっ?」



「子犬のようだな。あんたは」


「…。」


「仕方がない。それなら今日は可愛がってやろう」

「えっ、いや。あたしが言いたいのはそう言うのじゃなくて…」



「ひやっ!」


あたしは斎藤さんに引っ張られ、一瞬にして彼のうでの中へ納められる


わっ、わぁっ

どうしよう…
鼓動が速くなる

このままだと斎藤さんに聞こえちゃう

恥ずかしい

とりあえず離れなくちゃ


突然のことに楠葉の頭は混乱する

離れようとするがギュッと抱きしめられていて身動きがとれない


「さ、斎藤さんっ。離してくださいっ」

斎藤さんは聞こえている筈なのになかなか力を弱めてくれない



「斎藤…さん」


斎藤さんからはいい香りがする

この匂いは嗅いだことがあるような気がする


例えるならお日様の香り


ちょっとだけならこの体勢でいてもいいかな

楠葉はため息混じりに胸元にあった手を斎藤さんの背中に回す


すると斎藤さんが一瞬ビクッとなった


フッと温もりが消え、あたしは驚いて顔をあげる



見上げるとそこには真っ赤になった斎藤さんが唖然としていた


< 113 / 393 >

この作品をシェア

pagetop