漆黒の黒般若
今ある唯一のお父さんとお母さんの形見


広げればまだ微かに自宅の匂いがする


久々に着たセーラー服は着物に馴れつつあるあたしの体には少し窮屈に思えた


久しぶりに上げるチャック
久しぶりにはくスカート


最近までの記憶が一気によみがえる


少し埃をはらうと先程は分からなかったシミを見つけた


黒い布地のため分かりにくいがそれはきっと血だろう
今更、誰の血かを判別するのは無理だ

それほどまでにあたしは人を殺した


もしかしたら裕の血かもしれない


あたしのために死んでいった裕の血


あたしのために流れていった血


洗えばとれるだろう

しかし楠葉はそれをとろうとは思わなかった


きっと洗ってもあたしの中にある穢れはとれることはないだろう


沢山の人を殺してしまった…


蒸し暑い部屋に夜風が流れ込む


涼しい風がスカートをひらひら舞い上げる


楠葉はその場に倒れこんだ

人を斬り殺してきた手を見る

目覚めたらすべて夢であることを願って
静かに目を閉じた



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